- コラム
やすみりえの「ことのは5・7・5」Vol.5
2016.09.28
一歩一歩深まってゆく秋を感じる今日この頃。空を見上げる時にも季節の移り変わりを見つけることができます。きっと先日の仲秋の名月を楽しまれた方も多いことでしょう。
私はちょうどフランス・パリに滞在中でしたが、くっきりと白く輝く名月を眺めることが出来ました。秋雨が続いていたので期待していなかったのですが、異国で見上げる名月もなかなか乙なもの。しばらく目をこらして眺めていたら、“お餅つきをしているウサギ”が“フランスパンを持ったウサギ”に見えてきちゃいました。うーん、美味しい本場のワインにほろりと酔ったせいにしておきましょうか。
さて、せっかくですからお月見を詠んだ一句をご紹介しましょうね。タイムスリップして江戸時代の作品といきましょう。
〈月見客筆をかみかみさて出来ぬ〉
この場面は風流なお月見の宴。そこに招かれたお客さん、「どうぞ一句いかがですか」と短冊を渡されて困っている様子ですね。これではせっかくのごちそうやお酒も楽しめなさそうです。早く句を完成させてホッとしたい気持ち、よーく分かります。
華やかな宴になど招かれなくとも、江戸の庶民は仲秋の名月にはお団子やススキを用意してそれぞれに月を愛でていたのでしょう。長屋では大屋さんが店子へお団子を配ってくれることもあったそうですよ。
〈大屋から鉄砲玉が十五来る〉
その様子を詠んだ句ですが「貰ったのは鉄砲玉のように小さいお団子だったよ」と、ちょっぴり皮肉めいた内容になっています。
江戸の庶民はなんとも正直ですね!
≪執筆者紹介≫
やすみりえ (川柳作家)
1972年、神戸市出身。大学卒業後、本格的に川柳の道へ。恋愛をテーマとした独自の川柳作品を発表するかたわら、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の川柳コーナーの選者を務める。 また、各種コンテストの審査員も多数。文化庁国語課「言葉について考えるワークショップ」では小・中学生に句を詠む楽しさを伝える活動も行っている。『サラリーマン川柳 よりぬき傑作選』(選、監修)『50歳からはじめる、俳句・川柳・短歌の教科書』(監修)、最新句集『召しませ、川柳』等出版も多数。
文化庁文化審議会委員、(一社)全日本川柳協会会員
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