- コラム
やすみりえの「ことのは5・7・5」Vol.7
2016.11.28
先日、11月の東京に雪が降りました。この時季に降るのは54年ぶりのことで、大きなニュースになりましたよね。
私は都内にいたので、朝からずっとその雪を眺めていました。時間帯によって降り方の強弱はあるものの、風がほんとうに冷たくて思わずブルブルッと身震いです。テレビやネットニュースからは、関東地方全体の交通機関の乱れや雪による被害の様子が伝えられ、この地域が如何に雪に不慣れなのかが目立ちました。それに、うっすらと窓辺に積もった雪はなんだか灰色で、残念ながらロマンチックな気分にも浸れず・・・。
ロマンチックな雪、と言えば思い出すのがこの大好きな一句。
〈雪降れば美しくなる過去と過去〉 大雄
男女の物語を感じさせるこの十七音。「過去と過去」という下の五音がその意味深な雰囲気を彩っています。この作品を詠んだのは北海道札幌市出身の川柳作家・斎藤大雄(1933~2008)。75歳でこの世を去るまで、川柳に情熱を注いだ人物です。北海道大学に在学中から川柳を始め、結社も立ち上げ、北海道を川柳王国にしようと走り回った熱血漢として知られています。生前、私も何度かお会いしたことがあり、ちょっとした雑談の中で「りえさん、北の雪はどんなふうに降るかというとね、“のんのん”なんだよ。僕にはその表現が一番しっくりくるんだよな。」と印象深いことをおっしゃいました。
〈逢いにゆく雪のんのんと闇を吸う〉 大雄
のんのんと降る雪・・・。さすが北の大地の人だからこその、雪への眼差し。そして川柳作家としての言葉への鋭い感性。
一足早い東京の雪に、大先輩との懐かしい思い出がよみがえりました。
≪執筆者紹介≫
やすみりえ (川柳作家)
1972年、神戸市出身。大学卒業後、本格的に川柳の道へ。恋愛をテーマとした独自の川柳作品を発表するかたわら、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の川柳コーナーの選者を務める。 また、各種コンテストの審査員も多数。文化庁国語課「言葉について考えるワークショップ」では小・中学生に句を詠む楽しさを伝える活動も行っている。『サラリーマン川柳 よりぬき傑作選』(選、監修)『50歳からはじめる、俳句・川柳・短歌の教科書』(監修)、最新句集『召しませ、川柳』等出版も多数。
文化庁文化審議会委員、(一社)全日本川柳協会会員
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