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『角川新字源』が大改訂!新しい世代の漢和辞典とは?

2017.11.20

『角川新字源』が大改訂!新しい世代の漢和辞典とは?

 2017年10月に『角川新字源』(KADOKAWA)が23年ぶりに改訂されました。漢和辞典としては驚異の累計570万部を記録している辞典ということで、新版の編者のお一人である阿辻哲次 当協会漢字文化研究所長にお話をうかがいました。

1.漢和辞典は「第三世代」に突入!?

―このたび、漢和辞典の『角川新字源』が23年ぶりに改訂されました。パソコンやスマホを使えばすぐに漢字が変換できる時代に、大規模な改訂をされた背景をお聞かせいただけますか?

 「漢和辞典」の利用目的は、時代によって変わってきています。そもそも「漢和辞典」は、漢文を日本語に訳すための辞典として生まれました。明治維新前の日本では、学問や思想の基礎として多くの人が漢文を読んでいたため、必要とされたのです。ところが、漢文を読む機会が減ってくると、漢和辞典は国語辞典の一領域としての役割が強くなり、漢字で構成された漢字語を調べるのに使われることが多くなりました。これが第二世代の漢和辞典と言えます。

 そして、新しい『角川新字源』は、情報化された第三世代に合わせた漢和辞典だと考えています。我々はパソコンやスマホで漢字を変換し、普段は用いない漢字をパソコンやスマホの画面を通して目にすることが増えました。パソコンやスマホで変換される漢字はJIS(日本工業規格)コードに含まれた漢字です。ところが、この中には第二世代までの漢和辞典には載っていない漢字が多数ありました。今回の改訂の大きなポイントは、このJIS漢字に含まれている漢字を全て載せたという点にあるのです。

―JIS漢字に含まれているのに漢和辞典に載っていなかったというのはなぜですか?

 それは、漢和辞典の役割とJIS漢字に含まれる基準の違いにあります。漢和辞典は先にも述べたように漢文や漢字語を読むための辞書でした。つまり日常的な漢字や漢文に出てくる漢字が掲載されています。一方、JIS漢字は、日常的に使用する漢字の他に、「閖(ゆり)」や「峅(くら)」などのように、日本の地名でしか用いられていないような特殊な漢字が含まれています。これまでの用途であれば、漢和辞典で「閖」や「峅」をひくことはまずありませんでした。しかし、パソコンやスマホの普及で、私たちは画面上に表示された文字を見たり、打ったりすることで、初見の漢字に出会い、漢和辞典で調べるようになったのです。ところが、辞書にはその漢字が載っていない、となるとこの辞書には知りたい情報がない、役に立たない辞書だと思われてしまいます。そこで、デジタル時代に合わせた改訂が必要になったわけです。

―パソコン・スマホが普及したからこそ身近になった漢字もあるということなのですね。


2.累計販売部数570万部の『新字源』のヒミツ

―ところで、『新字源』は漢和辞典の中でも最も売れている辞典だとうかがいました。

 はい。『新字源』は1968年に初版が発行されました。このとき、京都大学の漢文の大家だった西田太一郎先生が、同じく京都大学の音韻の専門家だった小川環樹先生や東京大学の甲骨研究をされていた赤塚忠先生とともに全力を尽くして編纂されました。当時の最高峰の専門家の知識が結集した内容の濃い辞書であるにも関わらず、サイズがコンパクトであったことから、『新字源』は漢文を学習する中高生や大学生たちに支持され、累計販売部数570万部のメガヒットを記録したのです。


3.23年ぶりの大改訂、そのポイントは?

―今回は23年ぶりの改訂だそうですが、どのような点が変わったのですか?

 大きくは3つあります。1つ目は先ほども述べた「JIS漢字」への対応です。

 そして2つ目は音、特に呉音に関する記述を大きく改訂したことです。音読み(字音)には漢音・唐音・呉音などがありますが、実はこの10年ほどで呉音に関する研究が目覚ましい進歩を遂げました。今回の改訂はこれらの研究成果を反映したものになっています。改訂前の『新字源』をお持ちの方は、音読み(字音)の部分を比べると違いにお気づきになるのではと思います。

 3つ目は、これまで『新字源』の巻末付録として掲載されていて、非常に評価の高かった「助字解説※」の内容を、見出し字の中に入れることで、辞書を引いたときにすぐに読めるようにしたことです。

 『新字源』はもともととても質が高い辞典ですから、私たちは現代の利用者や研究成果に合わせて更新したということですね。

―改訂にはどれくらいの時間がかかるものなのですか?

 発行元であるKADOKAWAから改訂のお話をいただいたのは2005年でしたから、今から12年前ということになります。


4.どんな方にお薦めしたい?

―そんなにかかるとは驚きました。今回も阿辻先生をはじめ漢字のエキスパートが編纂された漢和辞典ですが、どんな方(場面)に使ってほしいですか?

 『新字源』の良さは、漢字の成り立ちや意味が詳しく書かれている点や漢語の出典となった漢文が掲載されているなどにあります。その良さを分かっていただくためには、漢文や漢字を本格的に学習したいと思う人たちに使っていただきたいという思いがあります。

―イラストレーターの中村佑介さんデザインの特装版が発売されるということも話題になりました。

 そうですね。若い方には馴染みのある方だと聞きました。中高生たちが漢文や漢字を学習するときに『新字源』を手に取るきっかけになるのではと思います。


[画像:『角川新字源』特装版]

―はい、私も一目で「これ欲しい!」って声に出しちゃいました。『新字源』をひくと、古代文字や成り立ち、詳細な意味などたくさんの情報が目に飛び込んできます。普段、スマホやパソコンで調べることが多い方にも、ぜひ一度『新字源』を開いて、漢字の深く広い世界に足を踏み入れていただきたいなと思います。今日はありがとうございました。

※助字とは、名詞・動詞・形容詞など実質的な意味内容のある語を実字というのに対し、主として前置詞・副詞・接続詞・句末詞・疑問詞など実字を助けて文章の意味の関係を表す語をいう。虚字・虚辞ということもある。(『角川新字源 改訂新版』より)


≪参考リンク≫
・『角川新字源』特設サイトはこちら
・KADOKAWA発の文芸情報サイト「カドブン」(KADOKAWA)連載「10年かかりました。『角川新字源』大改訂。」
 第1回 「新字源」全面改訂! ~でも「改訂」ってなに?
 第2回 漢和辞典は漢字辞典とどうちがう? 
 第3回 辞書暦50年。 伝説の編集者が語る、辞書造りの真髄とは。

≪インタビュー≫
阿辻哲次(あつじ てつじ)
京都大学名誉教授 ・(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所所長
1951年大阪府生まれ。 1980年京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。静岡大学助教授、京都産業大学助教授を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科教授。文化庁文化審議会国語分科会漢字小委員会委員として2010年の常用漢字表改定に携わる。2017年6月(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所長就任。専門は中国文化史、中国文字学。人間が何を使って、どのような素材の上に、どのような内容の文章を書いてきたか、その歩みを中国と日本を舞台に考察する。
著書に「戦後日本漢字史」(新潮選書)「漢字道楽」(講談社学術文庫)「漢字のはなし」(岩波ジュニア新書)など多数。

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