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四字熟語根掘り葉掘り9:「頭寒足熱」とオランダの名医

2018.05.02

四字熟語根掘り葉掘り9:「頭寒足熱」とオランダの名医

 18世紀のオランダに、ヘルマン・ブールハーフェという医学者がいました。大学で教鞭を執り、いちはやく臨床教育に取り組み、多くのすぐれた医師を育てて、医学の発展に大きな足跡を印しました。

 この人が亡くなったとき、一篇の原稿が遺されました。タイトルは、「医学の秘法」。ブールハーフェ先生のこと、どんな重要なことを書き遺してくれたのかと期待しながらページをめくると、最初に「頭を冷やし、足を温めること」とあるだけで、あとは白紙だったそうです。

 ここから生まれたのが、「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」という四字熟語である。……という話があるのですが、いやいや、おもしろすぎますよね?

 実際、ブールハーフェ先生が亡くなったのは、1738年。一方、「頭寒足熱」は、古くは1651年に序文が書かれた『崑山集(こんざんしゅう)』という俳諧の書物の中に、「すそ野あつし 頭寒足熱 ふじの雪」と使われています。

 これでは、時代が合いません。でも、だからといって、「頭寒足熱」がヨーロッパに由来する四字熟語である可能性がまったくないわけではありません。

 英語に、A cool mouth and warm feet live long.(口を涼しく、足を暖かくすれば長生きする)ということわざがあります。これは、古くはジョージ・ハーバートというイギリスの詩人が編集したことわざ集、『ヤクラ・プルデントゥム』に出て来るもの。そして、この書物の刊行年が、くしくも1651年なのです。

 となると、ヨーロッパにはこういうことわざが16世紀ごろから存在していて、それが宣教師や貿易商人によって日本に伝えられたとしても、不思議ではありません。江戸幕府がいわゆる「鎖国」体制を作り上げていくのは、1630年代のことです。

 でも、そもそも〈頭を熱くしないで、足は冷やさない〉という程度の健康法であれば、医学の発達を待つまでもなく、生活習慣の中で自然と生み出されてもおかしくないですよねえ! ヨーロッパと日本で別々に生まれたものが、たまたま同じ時期に、書物に記録されることになった、と考える方が自然ではないでしょうか。

 というわけで、今後、よほど強力な証拠が出て来ない限り、偏屈な辞書編集者としては、〈頭寒足熱はヨーロッパ由来である説〉は、採用できないのです。

<参考リンク>
漢字ペディアで「頭寒足熱」を調べよう。

<著者紹介>
円満字二郎(えんまんじ じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)など。
また、東京の学習院さくらアカデミー、名古屋の栄中日文化センターにて、社会人向けの漢字や四字熟語の講座を開催中。4月以降の詳細は、次のリンク先へ。
学習院さくらアカデミー:「おとなのための漢字学習」
学習院さくらアカデミー:「四字熟語でたのしむ漢文入門」
栄中日文化センター:「辞書編集者のおとなの漢字謎解き」

●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/

<記事画像>
By J. Chapman, artist (http://resource.nlm.nih.gov/101408907) [Public domain], via Wikimedia Commons

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