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新聞漢字あれこれ34 2019年「今年の超1級漢字」

2019.12.25

新聞漢字あれこれ34 2019年「今年の超1級漢字」

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 12月12日(漢字の日)に日本漢字能力検定協会から発表された「今年の漢字」は「令」でした。では今年の世相を表す「超1級漢字」は何だったのか。私は「」を選びます。

 JIS基本漢字(第1水準、第2水準)以外の漢字を、ほぼ漢検の出題範囲外として私は勝手に「超1級漢字」と呼び、日々、新聞から用例を採集しています。これらの多くは環境依存文字であるため、記事データベースで検索しにくいことから、個人的に記録として残しているものです。使用頻度の高いものもあれば、10年に1回ぐらいしか見ないもの、ある時期になると決まって登場する季節感のあるものなど、実に様々です。

2018年と2019年の日本経済新聞朝夕刊紙面に登場した超1級漢字トップ5

 ニュースを取り扱う新聞では、その時々の話題性で漢字の登場回数も大きく変わってきますが、今年はどんな漢字が紙面をにぎわせたでしょうか。日本経済新聞朝夕刊(1~11月、地方版を含む)から登場回数などを見ていきましょう。トップ5の漢字と紙面登場回数は表のとおりです。参考に2018年の上位5字も並べました。なお、ここでは環境依存文字でも『漢検要覧1/準1級対応』に掲載されている字種については集計から除外しています。

 2019年は「」が文句なしの登場回数第1位になりますが、「今年の漢字」のように数で選出すると、毎年のように「」が1位になってしまいます。世界第2位の経済大国である中国を象徴する「」は、地名の深のほか、取引所名、深を冠した企業名など紙面に毎日のように登場します。ここでは「」は〝殿堂入り〟ということで外すことにし、第2位の「」を「今年の超1級漢字」としました。ほかは「」を除き、文化・芸術関係で多く登場するものです。

 さて、「」といえば、思い浮かぶのは韓国の国(チョ・グク)前法相でしょう。一連の疑惑問題で紙面に何度も登場。いくらむいても次々と疑惑が浮上してくる「タマネギ男」と揶揄(やゆ)されているなどと報道されていました。確かに登場回数は多く、全250回のうち約8割の199回が曺国氏に関連するものでした。ほかに「」といえば、Jリーグ湘南の監督をパワハラ問題で退任した貴裁氏。この2人だけで99%を占めます。「曹」の異体字である「」は、新聞では主に韓国人の姓で登場しますが、今年の使用例を見ると「」にとって受難の年であったような感じがします(あくまでも個人ではなく字についての話です)。2018年の「」の登場回数は23回だったので、今年の突出ぶりが際立ちます。ニュースとはいえ、2020年は良い話題で漢字を選びたいものですね。

 ちなみに「今年の漢字」は日本漢字能力検定協会の登録商標ですが、私が作った「今年の超1級漢字」は商標登録されておりません。自由にお使いのうえ、皆さんで広めていただければ幸いです。

≪参考資料≫

小林肇「新聞の外字から見えるもの」明治書院『日本語学』2016年6月号
日本漢字能力検定協会『漢検要覧1/準1級対応』日本漢字能力検定協会、2012年

≪参考リンク≫

「今年の漢字」ウェブページはこちら

≪おすすめ記事≫

・新聞漢字あれこれ17 「令和」になって変わるもの はこちら
・新聞漢字あれこれ33 師走の「し」は風の意味 はこちら

≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 著書などに『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

tamayura / PIXTA(ピクスタ)

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