姓名・名づけ

新聞漢字あれこれ17 「令和」になって変わるもの

新聞漢字あれこれ17 「令和」になって変わるもの

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 今日から元号が「令和」にかわりました。日本経済新聞では今朝から紙面の上にある日付の部分が「2019年(平成31年)」から「2019年(令和元年)」に変更となりました。改元により、私たちの生活にもいろいろな変化が見られると思います。さて、何が変わるのでしょうか。

 あくまでも予想ですが、命名に使われる漢字の傾向に変化が起こると思います。新元号が決まった直後に「令和」という名前の人が話題になりましたが、新生児に元号の「令」と「和」を使った名付けが増えていくのではないでしょうか。根拠は2016年に執筆した連載記事で、同年のリオデジャネイロ五輪と1996年開催のアトランタ五輪の日本選手全員の名前に使われている漢字を調べた時に見えてきた名付けの傾向です。アトランタ五輪は全選手が昭和生まれ、リオ五輪は約7割が平成生まれということもあって、昭和・平成の名前の比較となりました。サンプルは両大会で648人(男子334人、女子314人)だったのですが、特に男子選手に「昭和から平成へ」の流れが見てとれたのです。「昭」「和」を使った名前がアトランタからリオでは減少し、アトランタではゼロだった平成の「平」がリオでは10人にも上りました。

アトランタ五輪とリオ五輪の日本選手名で多かった漢字上位5位

 参考に明治安田生命保険の「名前ランキング 生まれ年別ベスト10」で、大正以降の改元の年にどんな命名があったのか調べてみると、元号からとったと思われる名前が男女を問わず見えます(昭和元年は1週間だったので昭和2年を対象とした)。1912年(明治45年、大正元年)には、正一(男の子1位)や正雄(同3位)、正子(女の子4位)などがランク入り。1927年(昭和2年)には、昭二(男の子1位)、昭(同2位)、和子(女の子1位)、昭子(同2位)などが上位に入っていました。時代が下るとこの傾向は弱まるようですが、1989年(昭和64年、平成元年)には、翔平(男の子7位)、成美(女の子4位)が入ってきます。果たして今年の命名に新元号が影響を及ぼすのか。11月末のランキング発表を待つことにしましょう。

改元の年の名前上位10位

 改元といえば、昭和から平成になった後、日本経済新聞の表記にも変化が見られました。記事中の「年」の表記が西暦にほぼ統一されたのです。それまでは、主に国内記事では和暦が使われ、国際記事では西暦となっていました。例えば1985年を書き表す場合、国内は「六十年」、国際では「八五年」などとし、「十」の有無で和洋を区別していました。昭和が長かったこともあり、「昭和六十年」とせず「六十年」でも通用していましたが、平成になり記事中に昭和と平成が混在することが増えたこともあって、分かりやすくする意味もあり西暦で表記統一することとなったのです。その後、2000年代に入り漢数字から洋数字表記となり現在に至ります。平成の30年間に新聞紙面ではこんな変化が起きていたのでした。

 元号がかわったことで西暦が定着したというのも不思議なめぐり合わせのようです。「令和最初の……」が世間をにぎわせていますが、今回の改元で変わるのは命名のほかいったいどんなものがあるのでしょうか。

≪参考資料≫

小林肇「体験学 新聞から言葉を採集する③」日本経済新聞夕刊、2016年12月14日付
明治安田生命保険「名前ランキング 生まれ年別ベスト10」
『第26回オリンピック競技大会(1996/アトランタ)日本代表選手団ハンドブック・名簿』財団法人日本オリンピック委員会、1996年

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「令」を調べよう。
漢字ペディアで「和」を調べよう。

≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。
著書に『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。

≪記事画像≫

mits / PIXTA(ピクスタ)

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