『漢字の大疑問』発売記念 山本祥彰(QuizKnock)×安彦洋平(漢検職員)「面白くってためになる漢字とことばの世界」(前編)
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2026年7月30日『漢字の大疑問』(マガジンハウス社刊)が発売されました。漢字に関する素朴な疑問に専門家が答える本書に、質問を寄せてくださったQuizKnockで活躍中の山本 祥彰さんとYouTuberでもある漢検職員・安彦 洋平が発売を記念した対談を行いました。2026年8月、ジュンク堂書店池袋本店にて開催した本対談イベントの様子を一部抜粋・再編集して前後編でお届けいたします。

山本 祥彰(やまもと よしあき)
QuizKnock
1996年、埼玉県生まれ。早稲田大学先進理工学部卒業。高校時代には「全国高等学校クイズ選手権」でベスト4に進出し、大学では早稲田大学クイズ研究会に所属。2017年よりQuizKnockに加入し、YouTube動画への出演に加え、クイズや謎解きの制作·監修も手がける。日本語検定1級、謎解き能力検定1級など多数の資格を持つ。2022年に日本漢字能力検定1級に合格し、“漢字王”としても知られている。

安彦 洋平(あびこ ようへい)
公益財団法人日本漢字能力検定協会職員
学生時代より漢検1級の学習に打ち込み、勉強会の講師として各地で登壇。オンライン·オフライン問わず情報発信を続け、漢字学習の楽しさや奥深さを伝えてきた。現在は、漢検協会の職員として漢検の普及·広報活動の中で漢字の魅力をさらに世の中へ広げる取り組みを推進。世代や前提知識を問わずに漢字を楽しんでもらうためのきっかけづくりに取り組んでいる。
やっとお会いできましたね
安彦 洋平(以降、安彦): 今日はよろしくお願いします。
山本 祥彰(以降、山本): よろしくお願いします。いや~、安彦さんにはずっとお会いしたくて。実は今日が初めてなんですよね。
安彦: そうですね!
山本: 近いところですれ違っているというか、リンクしている部分はあったんですが、なかなかお会いできなくて。
安彦: わたしは普段は日本漢字能力検定協会(漢検協会)の職員として働いていますが、プライベートでは学生の頃から動画投稿などをしておりまして、おそらくそちらからご存知いただいて…。
山本: そうなんです! 漢検1級の勉強を始めたあたりでYouTubeが漢字に関するトピックをいろいろおすすめしてくる中で安彦さんを拝見しまして。漢字の話だけの配信者は少ない中で、詳しいし面白いし、ユーモア溢れる漢字の配信をされているなと。
安彦: 漢字だけの配信者は少ないですね。ニッチな投稿をさせてもらっています。今日は漢検協会の職員としてご一緒させていただくんですが、QuizKnockさんとのご縁は、今年2月に投稿された動画「漢検五段に挑戦する」です。漢検協会が50周年を迎えた昨年、かつて存在した「段位」の復刻をわたしが企画し、QuizKnockさんに提供して挑戦いただきました。
山本: そうだったんですね!
安彦: ほかに、漢検協会ではなくわたし個人の活動として、QuizKnockさんの後輩グループのAlmaZarQ(あるまざーく)の狐灯魂文字麿(ことだまのもじまろ)さんへの漢字問題の提供も行っています。山本さんが挑戦された「ひらめきイラスト漢字クイズ」も半分ほどわたしが作成しました。
山本: おー! ありがとうございます。あれは良い問題でしたね! わたしがいっぱい解けたというところも含め、最高の問題でした。
いろんな人に漢字クイズを出すちょっと厄介な子どもだった
安彦: 山本さんはQuizKnockさんの中でも漢字がお得意ですよね。
山本: クイズを始める以前から漢字は好きでしたね。小さい頃から「漢字は覚えるとすぐに活かせる」のがうれしくて覚えるのが好きでした。中学2年生の時に漢検準1級に受かりまして「もしかして自分は漢字が得意なんじゃないか!?」との自我が芽生えたんですが、1級を受けたら難しすぎて挫折し、高校あたりからは漢字からは離れていましたね。
安彦: 1級は本当に難しいですからね・・・。
山本: QuizKnockの活動を本格的に始めたあたりで、漢字に詳しいのはカッコイイと改めて思いまして、漢検1級合格に向けて猛勉強し、最終的には受かりました。そんな感じでQuizKnockでの漢字の企画だとかを通して漢字を広げる発信をしていますね。
安彦: 小さい頃から、とのことですが、漢字にハマり、沼に入っていったのはいつ頃でしたか?
山本: 正確には覚えていませんが、小学4年生の時に担任の先生との交換日記みたいな形での日記提出があり、そこで漢字クイズを出題していた記憶がありますので、少なくとも4年生ではハマっていたから3年生くらいでしょうか。
安彦: その先生も冷や汗ものですね。山本さんからの漢字の挑戦を受けるのはなかなか…。
山本: 今思うとほんとイヤな教え子ですよね。先生はクラス全員分の日記をチェックしないといけないのに、ぼくはいろいろ調べて難しいと思った漢字を集めてクイズにしていましたから。先生、漢字が嫌いになってないといいな、と思いますね。でも、そのくらい漢字が好きだったという記憶があります。
安彦: きっかけとなったものはありますか?
山本: 多分、クイズ番組ですね。「Qさま!!」や「ネプリーグ」などでの漢字問題で、知らない世界の広がりを感じました。難しい問題を解ける人がカッコイイな、憧れちゃうな、とも思いましたし。
安彦: わたしもクイズ番組がきっかけですね。「知っている言葉が漢字ではこう書くんだ!」と驚き、面白さに気付いて一気にハマっていった気がします。わたしも小学4年生くらいでしたね。
山本: 同じくらいですね。よく覚えているのは、「熱血!平成教育学院」だったと思うんですが、ロザンの宇治原史規さんが「くしゃみ」の書き取りに挑戦されてて、すっごい惜しいところで間違えちゃったんですよ。
安彦: たしかに「嚔(くしゃみ)」は字形が難しいですよね。右下の方がぐちゃぐちゃしています。
山本: ですね。書いていて不安になります。久しぶりに書くと「あれ? 合ってるよな?」って。右下「ム」だよね? ・・・「ム」だよね!? となります。
安彦: 「くしゃみ」。「くさめ」とも読む。「はなひ-る」とも読む。
山本: ・・・なんの話でしたっけ。で、当時「くしゃみ」の漢字がある事を知らなかったので、その驚きと、この字を惜しいところまで書ける人がいるカッコよさが印象に残っています。
安彦: 山本さんもわたしも小学校中学年でクイズ番組からハマると、同じような道を通っていますね。わたしも小学校高学年でいろんな人に漢字クイズを出しているちょっと厄介な子どもでしたね。
山本: 木偏の漢字クイズを友達に出してた記憶が甦ってきました。自由帳に10個書いて、自分なりに難易度をつけて読めるかどうかを出題していました。
安彦: だんだん難しくなっていくんですね。
山本: 10個目に置いていた一番の難問を友達が読めてしまったんですね。「柊」だったんですが。でも、その友達の名前に「柊」が入ってたんで、盲点でした。それからはクラス名簿のチェックもしていました。結構、人名用漢字、難しいのがありますし。
最近熱い、人名用漢字
山本: 最近増えましたね、人名用漢字。
安彦: 弥勒菩薩の「勒」の字が人の名前に使えるようになりましたね。 ※2026年6月26日~
山本: この1字が増えたことでちょうど3000字になりましたね。激アツトピックです、「勒」。
安彦: 最近の漢字トピックと言えばこれですね。
山本: QuizKnockでも、即、河村さんが。撮影のため収録部屋に集まってソファに座ったら「勒だねぇ」と。ぼくも「勒ですねぇ」と返したんですけど。
安彦: それで伝わるところがすごいですね。QuizKnockのみなさんで漢字の話をされることもありますか?
山本: QuizKnockは知識を共有する社内ツールがありまして、結構自由に最近知った面白いことを共有し合っています。うちはいろんな知識に対して受け容れてくれる文化があり、漢字だけでなく語学や科学など多様なジャンルの知識を共有し合ってみんなで面白がっています。
安彦: メンバーのみなさんの「自分の知らない分野に対しても知ろう」という姿に知的好奇心の高さを感じます。
山本: 面白がって聞いてくれる人が近くにいるため、情報を提供する側も楽しくて、共有すべき知識をもっと蓄えたいな、という気持ちになっています。
漢字の知識はメンテナンスが必要
安彦: 漢検1級に合格されたのはいつ頃でしたか?
山本: 4年前の2022年ですね。
安彦: 合格から時間が経っていますが、山本さんは最近でも高度な漢字知識が抜けずに保たれているように思います。わたしは1級合格したのは大学生の頃で、漢検協会に入職して以来、受検は出来ていないこともあって、どんどん忘れている感覚があるのですが。
山本: メンテナンスしてはいますが、やはり衰えているとは思います。
安彦: 山本さんでもそうなりますか。
山本: 検定本番に向けてピークを持って行くあの全盛期と比べると忘れているものは多いなと思いますが、自分の中で妥協できるラインを持つようにしています。あまりにも「読めない漢字」「忘れた熟語」が増えたと感じたら、定期的に見返しています。
安彦: どういった形でメンテナンスされていますか?
山本: まず、自分の中で「イヤにならないぐらいのところまで」を大切にしていますが、先日は漢字の書き取りをしましたね。漢検の模擬試験ができるウェブサイトの問題をノート1ページ分ほど。
安彦: 多くの語に触れるわけですね。漢検でいえば、一番抜けてしまう分野などありますか?
山本: 故事・諺ですね。四字熟語なんかは音の響きなど特徴があるので結構残っているんですが、故事・諺は1文丸ごと全部覚えるということをそもそもしていないので。例えば「烏は【反哺】の孝あり」という諺なら「反哺」部分を覚えて、出題された時はカタカナの「ハンポ」から「反哺」を復元するような訓練をしていたため、抜けやすいんですよ。
安彦: なるほど。四字熟語は意味もセットで覚えるので忘れにくいですが、故事・諺は「ただ覚えているだけ」というケースが多く定着が難しいですよね。熟字訓・当て字はいかがですか?
山本: 結構忘れてますね。この前も熟字訓の書き取りでミスってしまって。
安彦: 書き取りは難しいですね! 漢検では熟字訓・当て字は「読み方」を問う出題形式ですから、書く事はあまりしない。
山本: ショックでしたね。かなり忘れていたことが。安彦さんも勉強されているのでは?
安彦: 体系だった勉強は全然出来ていません。辞書を読み返しているくらいですね。日々、辞書は読むようにしています。
山本: 辞書を・・・読む・・・? 「趣味、辞書」・・・?
安彦: はい。漢検1級は出題対象が6000字ですが、漢字自体はそれ以上、特に大型の漢字辞典だと5万字の収録があるなど、とてつもない広がりがあるので漢検の範囲にとらわれずに知識を広げるよう勉強は進めていますね。
漢検1級配当を超えた漢字の世界
山本: 漢検の配当外には興味があるのですが、勉強の仕方が難しくて。超難問の漢字クイズゲームに出てくる漢字などはざっと見てはいるのですが、それ以外の収集はアプローチが難しいですね。
安彦: これといった勉強の方法はないため、辞書を読むしかなくなってしまう。
山本: 生活の中で見つけた配当外の漢字を集めてはいます。全然集まらないですが。
安彦: たとえば何かありますか?
山本: 「麨粉(はったいこ)」とか。 ※麦や米を煎って粉にした食品
安彦: 「糗粉(はったいこ)」もありますね! 漢検1級配当外です。
山本: 漢検出ないですよね。あと「金楚糕(ちんすこう)」とか。
安彦: 「ちんすこう」はだいたいひらがなで書かれていますから漢字表記を見るとうれしくなりますね。先日ラーメン屋さんで「普洱(プーアル)茶」と漢字で書かれているのを見ました。
山本: それはうれしいですね! そういった形で集めてはいるけど、なかなか集まるものでもなく収集は難しいですね。
安彦: そうですね。1級受検に取り組むと「1級範囲の漢字」か「範囲外の漢字」かは判別できるので、辞書で見つけ次第、印をつけていく、という形になりますかね。
山本: 地道なんですね、すごく。
漢字の世界が広がる瞬間
安彦: 抽象的な質問になりますが、漢字の面白さとはどういうところだと思われますか?
山本: 生活に密着しているところでしょうか。漢字を見ない日はないですよね。漢字を知れば知るほど日常でのありがたみに気付くことが出来る。漢字を知ることで読める言葉が増えるのもそうですし、初めて見た言葉でも漢字を知っていると意味を掴む手がかりになりますし何となく愛着も持てます。直接的ではないけど、世界を面白がる足掛かりとして使えるのが漢字かなと思っています。
安彦: 世界を面白がる足掛かり。
山本: 世界がより面白くなる秘密のツールなんじゃないかと思っています。
安彦: 漢検準1級を勉強している時など、ふいに日常にあるものが準1級漢字であることに気付くことがありました。
山本: 準1級はそれが面白いところですよね。かなり使われているんですよね。
安彦: 今まで気付いていなかったのに、勉強したことで気付けた時に視野が広がる感覚がありました。
山本: そうなんですよ。世界が広がるんですよ、漢字で。
安彦: これだけ生活に密着している漢字ですが、まだわかっていない事が多いところも漢字の魅力の一つかと思います。未だに中国で史料が新たに発見されますので、新しい漢字が見つかるとか、既にある漢字に新たな読み方が追加されるとか。漢字は「増える」という部分がまだまだあるんですね。広がり続けるのが漢字の面白さでもありますね。
山本: 未知の部分を追究する面白さもありますね。それで言うと、漢字って新しく創作されますよね。
安彦: 確かにそうですね。元素の漢字など、新しい元素が増える度に漢字も増えていっています。
山本: 生きている言語ですね。

後編は10月21日(水)公開予定です。
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