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新聞漢字あれこれ109 動、活、緩、戻… 2022年「今年の良い漢字」

新聞漢字あれこれ109 動、活、緩、戻… 2022年「今年の良い漢字」

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 12月12日に日本漢字能力検定協会から発表された「今年の漢字」は「戦」。コロナ禍が続くなかで、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、元首相の銃撃事件、急激な物価上昇など、さまざまな出来事がありました。そんな一年を「今年の良い漢字」で少しでも明るく締めくくりたいと思います。

 専修大学国際コミュニケーション学部で「メディア日本語論1」を受講している学生に、今年を象徴する「良い漢字」とその選定理由を尋ねました。受講者は日本語学科1・2年生53人、異文化コミュニケーション学科3年生58人の計111人。そのうち94人が回答してくれました。

 全体の傾向としては、コロナ禍で止まっていたものが動き始めたことを表す字が選ばれています。大学の講義がオンラインから対面中心へと切り替わったのも大きく影響しているのでしょう。異文化コミュニケーション学科の学生は延期になっていた2年次での留学が1年遅れで実施され、そうした自らの体験を踏まえた字を選んでくれています。字種は62と多彩でした。

 その中で一番多かったのが「動」の5人。「これまでのウイルスを根絶したいという意識から、共生を受け入れる感覚に日本人が少しずつシフトチェンジ(動いている)していると感じた」「今まで少しずつ規制は緩和されていたものの、ここまで大きく人の動きが自由になったのはコロナ流行以来で今年が初めてだったように考えられる」などと選んだ理由を挙げてくれています。実は私が「今年の漢字」に応募したのも「動」。校閲をしていて、経済が動き出した記事をよく目にしたからです。

 参考ですが、2位は「活」「緩」「戻」のそれぞれ4人。「活」は社会活動の再開や、冬季五輪・米大リーグなどでの日本人アスリートの活躍を表しています。「緩」はコロナ禍で長く強いられてきた制限の緩和、「戻」はコロナ以前の生活に戻りつつある動きをそれぞれ意味します。5位は3人の回答で「再」「新」「挑」「繫」「安」「禍」の6字でした。

 今年、学生が選んでくれた62字の中で私が特に印象深かったのは「花」でした。学生が書いてくれた理由を引用します。

 今年世の中で起こったことを思い返すと、マイナスなことばかりが思いついてしまいましたが、私がふと思ったのは季節の花や木々などは変わらず今年も綺麗に咲いて私たちを癒してくれたなということでした。気候による影響は多少受けつつも、世の中の喧噪をよそに綺麗に咲き誇っている様子から、来年は良いことがたくさん起こるいい年になるといいなという気持ちも込めてこの漢字を選びました。また、個人的にはなりますが、留学中にも道に咲いている花に元気をもらっていたのでこの漢字を選びました。

 この文章を読んで心が和むとともに、自分はそういった木々や花の様子に目を向けていなかったことに気づかされました。ついつい目先のことばかり考えていて、余裕がなかったのかもしれません。来年はもっと周囲に目を配り、花に癒やされるような時間を持ちたいですね。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「動」を調べよう
漢字ペディアで「花」を調べよう
「NIKKEIことばツイッター」はこちら
「今年の漢字」Webサイトはこちら

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

協会職員撮影

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