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新聞漢字あれこれ59 繫、新、家… 2020年「今年の良い漢字」

新聞漢字あれこれ59 繫、新、家… 2020年「今年の良い漢字」

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 12月14日に日本漢字能力検定協会から発表された「今年の漢字」は「密」。大方の予想どおり、新型コロナウイルスに関係するものでした。

 「今年の漢字」はその年の世相を表しますので、応募した人も新型コロナ関係の字を避けるわけにはいかなかったのでしょう。とはいえ、暗い話題ばかりでは気がめいってしまいそうです。できるだけ明るい話で2020年の連載を締めくくりたいと思い、「今年の良い漢字」を選ぶことにしました。この9月から講師をしている専修大学国際コミュニケーション学部の1年生で「メディア日本語論1」を受講している学生31人に、今年を象徴する「良い漢字」とその選定理由を尋ねました。


 調査として数は多くないものの、思わずなるほどと納得してしまうような字を選んでくれました。その中で一番多かったのが「繫」の5人。「コロナ禍で大変な1年だったからこそ、人とのつながりを大切にしようと思えた」という意見に代表されます。これまで気軽に会っていた人と突然会えなくなり、あらためて人とつながることの大切さが身に染みたということもあると思います。直接会えなくても、オンラインだから遠方の人とつながれたという前向きな考え方もありました。


 ちなみに、今年の日本経済新聞紙面に登場した「繫」の数は104件(12月10日現在)になり、私が統計をとっている2017年以降では最多となりました。「繫」は常用漢字ではないため、寄稿や文化・芸術関係などで例外的に使うことはあっても、使用頻度はあまり高くない字です。登場件数の多さを見ると、それだけ世相を反映した点があると言えるのかもしれません。東日本大震災に見舞われた2011年に「今年の漢字」に選ばれた「絆」のことを思い出しました。


 参考ですが、2位は「新」(4人)で、3位は「家」(3人)。オンラインを通じた新しい人とのつながり、ステイホームで一緒に過ごす時間が増えた家族とのつながり。どちらの字も「繫」に通じるところがあります。4位はすべて1人の回答で、温・会・改・楽・休・近・結・己・在・笑・生・沢・団・知・挑・動・発・来・滅の19字。それぞれ前向きな選択理由があり、学生たちの力強い思いを感じます。「滅」は一見、良い字には見えませんが、「『鬼滅の刃』がコロナ禍で不景気な経済を潤してくれた。来年はコロナウイルスが滅ぶようにという願いを込めた」ものだそうです。


 実は今回、昨年末の第34回のように「今年の超1級漢字」を紹介しようと思っていたのですが、昨年の「曺」のような今年を象徴する「超1級漢字」が見つかりませんでした。そういったこともあり、企画を変更し、専修大学の学生の皆さんに「良い漢字」を選んでもらったしだいです。さて、来年はどんな漢字に出会えるでしょうか。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「繫」を調べよう
漢字ペディアで「新」を調べよう
漢字ペディアで「家」を調べよう
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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。
2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

TeraVector/PIXTA(ピクスタ)

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