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新聞漢字あれこれ134 「変」 2023年「今年の良い漢字」

新聞漢字あれこれ134 「変」 2023年「今年の良い漢字」

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
 12月12日に日本漢字能力検定協会から発表された「今年の漢字」は「税」。個人的には少し意外な結果でしたが、生活に直結する増税・減税の動向が注目された年でありました。このコラムでは「今年の良い漢字」で一年を締めくくりたいと思います。

 専修大学国際コミュニケーション学部で「メディア日本語論1」を受講している学生に、今年の世相を表す「良い漢字」とその選定理由を尋ねました。受講者は日本語学科1~3年生42人、異文化コミュニケーション学科3年生9人の計51人。そのうち49人が回答してくれました。

 全体の傾向としては、新型コロナウイルス感染症の5類移行を受けた社会の変化や、野球やバスケットボールなど日本代表が活躍した球技の話題、将棋の藤井聡太八冠の偉業をたたえる字が選ばれています。字種は42字と多岐にわたりました。

 その中で一番多かったのが「変」の4人。「コロナの5類移行でマスクを外す人が増えるなど生活や環境が変化した」「LGBT理解増進法の成立は、時代の流れとともに法も変わっていくという変化の表れ」などと選んだ理由を挙げてくれています。また、「より平和で皆が幸せになるために現状から良い方向に変わってほしい」という願いも込められていました。

 参考ですが、2位は「動」「球」「大」「戦」のそれぞれ2人。「動」はコロナ禍明けの社会の動きなどを表しています。「球」は球技の活躍のほかSDGsなど地球に関わる環境問題を意識した選定理由が挙げられていました。「大」はメジャーリーグで2度目のMVPに選ばれた大谷翔平選手の「大」であり、阪神、オリックスといった大阪に関係するプロ野球球団の優勝なども。「戦」は戦争や戦闘の「戦」ではありますが、大学生活で直面した新しい取り組みへの前向きな「挑戦」を表したものでした。

 今年、学生が選んでくれた42字の中で私が特に印象深かったのは「素」でした。学生が書いてくれた理由を引用します。

 一番の決め手は、新型コロナの感染者数が減少したことで、マスクをせずに生活できるようになり、多くの人の「素顔」を見ることができた点である。今までは食事中以外でマスクを外す機会はほとんどなく、仲の良い友達でさえ素顔を忘れてしまうこともあった。笑顔で話してくれる友達の口元が見えるだけで、一つ壁が無くなったように感じ、「素敵」な気持ちになれた。

 もう一つは、自分の「素」を投稿できるSNSが流行したことである。以前からあるインスタグラムなどのSNSは、近年では「映え」が重視されたものが多かったのに対し、素の自分を親しい友達と共有できるアプリが流行したことで、新たなコミュニケーションを広げることができた。

 相手の素顔が見られるという、本来なら当たり前の日常が戻ってきた喜びが伝わってきます。今年も「新聞漢字あれこれ」をお読みくださり、ありがとうございました。皆さんにとって2024年が今年以上に素敵な年になりますように。

次回、新聞漢字あれこれ第135回は2024年1月10日(水)に公開予定です。

≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「税」を調べよう
漢字ペディアで「変」を調べよう
漢字ペディアで「素」を調べよう
「今年の漢字」特設サイト はこちら

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

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