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おすすめ本紹介:笹原宏之著『謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば』

おすすめ本紹介:笹原宏之著『謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば』

 4月に早稲田大学教授 笹原宏之先生の『謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば』(中公新書)が発売されました!方言漢字や国字の研究者として名高い笹原先生の新刊とあって、発売前から待ち遠しく、さっそく購入して読んでみました。

 章立ては第一部が「日本の地名・人名と謎のJIS漢字」、第二部が「海老蔵は鰕蔵か」、第三部が「科挙と字体の謎」となっています。どの章も大変綿密な考証のうえに、読みやすく洒脱な文章で書かれていますが、その中でも、当コラム作者が楽しみにしていたのは第三部「科挙と字体の謎」。全書の半分のページ数が割かれており、読み応え抜群です。

 「木の縦画はハネてはいけない」「女の『ノ』はつきでてはいけない」など、学校で習った「正しい」字の形。正しい字とは何なのか?漢字にとって「本来」とは何か?研究者だけでなく、一般人にとっても身近な疑問を出発点に、論は進みます。

 例えば、「木」の縦画がハネるかハネないかについては、明・張自烈の『正字通』という字書を例に引き、「根は曲がるものなので「亅」でも非としない立場を表明して」おり、「人によっても字書によってさえも、判断は定まっていなかった」ことを明らかにしています。

 他に、科挙の採点基準や明代の「台閣体」、清朝の筆禍事件など、普通は知ることのない知識がてんこもり。科挙の首席合格者の答案から百科事典や辞書までの膨大な文献を渉猟して、各時代の「正字観」について解き明かしています。

 地名や人名など、身近な漢字の話を知りたい方だけでなく、漢字を専門に勉強してみたい大学生のみなさんにもおすすめの本です。

≪参考リンク≫

『謎の漢字 由来と変遷を調べてみれば(笹原宏之著  中公新書 2017.4)

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