漢字ミュージアム 秋の企画展より、「翻訳事始」レポート~前編~

京都・祇園にある漢字ミュージアムにて、2018年9月3日から12月11日まで開催された、秋の企画展『幕末明治のことば展~漢字よ、ありがとう~』。幕末明治の漢字のことばに光を当てた展示や、貴重な資料を公開しました。また、人気のコーナー「翻訳事始(ほんやくことはじめ)」では、来場者やTwitter利用者から、お題に出したカタカナ語の翻訳を募り、その中からセンスあふれる作品を所長賞や研究員賞として発表しました。
こちらの「翻訳事始」について、日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所の小林雄一研究員が2回に分けてレポートします。
前編となる今回は、コーナーの概要と受賞作品についてご紹介します。
~レポート前編~
1.「翻訳事始」コーナー
明治時代には、それまで日本にはなかった物やことばが、西洋から伝わりました。当時の人々は、それらを漢字のことばに翻訳することで日本語に取り込みました。「哲学」「抽象」など現代日本語に見られる漢字語には、明治時代に生まれたものが少なくありません。
大正時代以降は、漢字で翻訳することなく、仮名で外来語を表記してそのまま日本語の文章に取り込むことが増えてきます。国立国語研究所による1956年、1994年発行の雑誌の語彙の調査によれば、和語・漢語・外来語のうち、外来語が大幅に増加しているという結果が出ています。その後、国立国語研究所の「外来語言い換え提案」(2003~2006年)が行われました。
【カタカナ語言い換えパネル】
私たちの日常生活を振り返ると、例えば「クーラー」には「冷房」という漢字語がありますが、「インターネット」には対応する漢字語がありません。もし、「ドローン」や「スマートフォン」を漢字で書いたらどうなるのでしょう? 「幕末明治のことば展」では、「翻訳事始」コーナーを設け、9つのお題を出題し、来館者に回答していただきました。
【「翻訳事始」の顔出しパネル】
2.お題の人気・不人気
【9つのお題】
企画展の期間の3ヶ月で、約2800枚の回答が集まりました。お題の回答数上位・下位3位は次のものです。
1位:ファーストフード
2位:マスク
3位:スマホ
7位:SNS
8位:アナウンサー
9位:ワークライフバランス
3.「#翻訳事始」
漢字ミュージアム公式Twitter上で、毎週、上の9つのお題から1つを出題して回答を募り、館内の翻訳とともに審査して、漢字文化研究所の所長賞・研究員賞を発表しました。各回のお題と所長賞・研究員賞は以下のとおりです。
お題 |
所長賞 |
研究員賞 |
|
1 |
インターネット |
(なし※) |
引多網 |
2 |
ファーストフード |
即食 |
手軽食 |
3 |
ドローン |
空撮機 |
忍撮 |
4 |
スマホ |
知能風 |
素魔歩、愛本、 板電話、電子万屋 |
5 |
マスク |
覆口布、覆口 |
顔面守護神 |
6 |
カーリング |
氷上滑石 |
滑球 |
7 |
ワークライフバランス |
仕事と私生活の均衡 |
仕事家庭平等 |
8 |
アナウンサー |
情報伝士 |
弁士 |
9 |
SNS |
社会網 |
共感共有 |
※ 所長が長期出張だったため、選出できず。
~レポート前編 終了~
いかがでしたか?対象の用途や特徴がうまく捉えられた、納得の翻訳語が集まりましたね。みなさんもぜひ、オリジナルの翻訳語を考えてみてください。
さて、レポート後編では、各テーマにおける受賞作品の中から漢字文化研究所の所長・研究員が選んだ、「特選」作品を発表し、皆さんから寄せられた翻訳語の分析結果もご紹介します。こちらも楽しみにお待ちください!
≪参考リンク≫
・漢字ミュージアムホームページはこちら
・漢字ミュージアムTwitterアカウント@kanji_museumはこちら
・漢字カフェ「漢字ミュージアム秋の企画展「幕末明治のことば展 ~漢字よ、ありがとう~」開催中!」の記事はこちら
・漢字ミュージアム 秋の企画展より、「翻訳事始」レポート~後編~はこちら