やすみりえの「ことのは5・7・5」Vol.3

著者:やすみりえ(川柳作家)
各地で梅雨明け宣言が聞かれ、夏もいよいよ本番です。暑い暑いと言いつつも、この季節ならではの楽しみを存分に味わいたいですね。
そんなわけで先日は、お仲間と浴衣姿で恒例の屋形船へ。
夕暮れてゆく東京のベイエリアを二時間ほどの遊覧でしたが、水辺の揺らぎはとっても心地よいものでした。そして何といっても、船のお座敷で揚げたての天婦羅と日本酒をいただくのが毎年の楽しみ。そして少しお酒がまわりはじめると、誰かが即興で川柳を発表したりして。
いつだったか〈二次会へ行く途中まで覚えてる〉と男性メンバーが一句。
そうしたら〈一次会さえも途中で忘れてる〉と女性陣が切り返していました。
句の良しあしは別にして、このテンポのいいやりとりにみんなが爆笑した思い出があります。この日の集いは句会じゃないのに、何ともノリの良いお仲間でしょう?そんな顔触れですから舟を降りてからもすぐ解散とはならず。毎回二次会へと流れてゆくわけです。
さて、川柳の始まった江戸時代にはこんな一句が詠まれていました。
〈いい涼みあたまの上を歩かせる〉
この“いい涼み”とは、ずばり屋形船のこと。隅田川あたりの風景でしょうか。“あたまの上”に架かる橋からは、行き交う人々が羨ましそうに眺めています。当時、いかに庶民の憧れの涼み方だったのかが分かる内容ですね。夏を満喫したい気持ちは今も昔も同じようです。
私は夏場、自分の持ち歩く団扇や扇子には川柳を書き添えています。柄の無い裏面へ、ちょっと夏らしい雰囲気の一句をササッと。
〈君待てば儚き色のソーダ水〉 りえ
これでぱたぱたと扇げば、私だけの夏の風です。
≪著者紹介≫
やすみりえ(川柳作家)
1972年、神戸市出身。大学卒業後、本格的に川柳の道へ。恋愛をテーマとした独自の川柳作品を発表するかたわら、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌の川柳コーナーの選者を務める。 また、各種コンテストの審査員も多数。文化庁国語課「言葉について考えるワークショップ」では小・中学生に句を詠む楽しさを伝える活動も行っている。『サラリーマン川柳 よりぬき傑作選』(選、監修)『50歳からはじめる、俳句・川柳・短歌の教科書』(監修)、最新句集『召しませ、川柳』等出版も多数。
文化庁文化審議会委員、(一社)全日本川柳協会会員
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