歴史・文化

漢字コラム17「雲」渦を巻いて立ち上がる

漢字コラム17「雲」渦を巻いて立ち上がる

著者:前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)

 雲がわき上がる様子を「もくもくと」という言葉を使って説明することが多いのではないでしょうか。古代中国の人達もそれと近い感覚を持っていたようです。それは「雲」という字の中に表現されています。

 「雲」は気象を意味する「雨」と「ウン」という音を持つ「云」で構成されています。この「云」は「気体のようなものが屈曲しながら立ち上がる様子」を描いたものだと言われています。中国の字書「説文解字」には「雲」の説明の中で「云は雲が回転する形にかたどる」と記されています。もともと「云」が「くも」という意味を表していました。「雲」は、「云」に気象を表す「雨」をつけて意味をはっきりさせたものです。甲骨文などの古代文字には「云」の下の「ム」の部分が、丸く渦を巻いているように描かれているものもあります。回転するというイメージなのでしょうか。

 また、「釈名」という語学書には「雲はなお云云(うんうん)たるがごとし。衆盛の意なり。また運を言うなり。運は行なり」と書かれています。これは、「雲は、気体のようなものがもやもや立ちこめているようなものだ。たくさん盛り上がっている意味。また(雲は)運のことだ。巡り動くからだ」といった意味です。雲に対してもやもやと回転したり屈曲したりして沸きだし、巡り動くという意識を持っていたと言えるのではないでしょうか。

 確かに温泉なんかにいくと、湯煙がもやもや回転しながら動いているのがわかるもんね。きっとそんな状態のことなのかもね。そういえば、「云云」は「うんぬん」って読むんじゃないの? 「あれこれ言う」とか「かくかくしかじか」とかいう意味でしょ?

 そうですね。踊り字を使って「云々」という書き方もありますね。「云」には「雲」という意味のほかに、「言う」「しゃべる」という意味もあります。これは口の中に息がとぐろを巻いている様子、つまり口から「気」のようなものが漂い出るというイメージだとされます。まっすぐに声(息)が出るというより、ここでも「屈折」「屈曲」という感覚を持っていると言えます。

 さらに「云」には、「釈名」に「衆盛の意なり」とあるように、ものがうじゃうじゃと沢山あるというイメージを含んでいます。それで「云云(云々)」には「ものが多くて盛んなさま」「言葉が多いさま」という意味もあるのです。そこから「あれこれ言う」「かくかくしかじか」ということを表すようになったのです。

≪参考資料≫

「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索など。サイト)を通して参照

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「雲」を調べよう
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≪著者紹介≫

前田安正(まえだ・やすまさ)
朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長
1955年福岡県生まれ。早稲田大学卒業。1982年朝日新聞社入社。名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センター長、用語幹事、東京本社校閲センター長などを経て、現職。
朝日カルチャーセンター立川教室で文章講座「声に出して書くエッセイ」、企業の広報研修などに出講。
主な著書に『漢字んな話』『漢字んな話2』(以上、三省堂)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』『「なぜ」と「どうして」を押さえて しっかり!まとまった!文章を書く』『間違えやすい日本語』(以上、すばる舎)。

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