漢字コラム21「税」 身ぐるみはがして取る?

著者:前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)
前回から12月恒例になった「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会 主催)で1位となった漢字の字源や意味を考えています。今回は2014年の「税」についてです。
この4月に、消費税率が1997年以来17年ぶりに5%から8%に引き上げられ、消費税が上がる前に高額な商品を慌てて買う姿も多く見られました。消費税8%は公共料金にも跳ね返り、家計への負担が増えました。この財源を社会保障費に充てるためだったということは、忘れないようにしたいですね。
「税」の旧字体は「稅」です。「禾」と「兌」の組み合わせで出来ています。「禾」は穀物が実った様子を表すものです。「兌」は「八」と「兄」を組み合わせたもので、「八」は「わける」、「兄」は「頭の大きい人」という説があります。これによると、「兌」は人の着物をはがして抜き取るさまで、脱衣の「脱」の原字(元の字)です。これに「禾」がついた「税」は収穫の一部を抜き取ること、すなわち年貢のことだ、という解釈です。
「兌」が「脱」の原字だと書きましたが、「税」にも「身につけているものをはなして取り去る」「ぬぐ」という意味があるのです。「説明」の「説」には「とく」のほかに「しこりや難点を、ことばでときほぐす」という意味があります。ここにも「取り去る」という共通項が見えてきます。「挩(タツ)」にも「抜け出る」「抜け出す」という「脱」に近い意味があります。
老子75章には「民之饑、以其上食税之多」<民の饑(う)えたるは、その上の税を食(は)むの多きをもってなり>とあります。つまり、民が飢えているのは、おかみが税金を多く取りすぎるからだというのです。昔から税金は、生活者に重くのしかかっていたようです。
その一方で「脱税」という言葉は、「身につけているものを引きはがす」という意味が、取る側と取られる側双方の心理状態を示しているようでもあります。おかみの権力とそれにあらがう悪知恵を表しているようにも思えます。とはいえ、やはり税金は正しく納めたうえで、その使い道をしっかり見届けていく方が賢明ですね。
≪参考資料≫
「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索サイト)を通して参照
≪参考リンク≫
≪著者紹介≫
前田安正(まえだ・やすまさ)
朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長
1955年福岡県生まれ。早稲田大学卒業。1982年朝日新聞社入社。名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センター長、用語幹事、東京本社校閲センター長などを経て、現職。
朝日カルチャーセンター立川教室で文章講座「声に出して書くエッセイ」、企業の広報研修などに出講。
主な著書に『漢字んな話』『漢字んな話2』(以上、三省堂)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』『「なぜ」と「どうして」を押さえて しっかり!まとまった!文章を書く』『間違えやすい日本語』(以上、すばる舎)。