歴史・文化

漢字コラム23「金」土の中の小さな輝き

漢字コラム23「金」土の中の小さな輝き

著者:前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)

 「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会主催)1位に選ばれた漢字の字源や意味を考えています。今回は2012年の「金」についてです。この字は、新500円硬貨や2000円札が登場した2000年にも1位に選ばれています。

 2016年「今年の漢字」は5日に応募を締め切り、12日に京都・清水寺で発表されます。

 2012年は、932年ぶりに日本各地で金環日食が観測されました。6月には21世紀最後となる金星の太陽面通過、8月には金星食が見られました。夏に開催されたロンドン五輪では、金メダルを含め38個のメダルを獲得しました。レスリングの吉田沙保里選手が国民栄誉賞を受賞しました。その際に贈られたものが、金色の真珠のネックレスでした。

 金は英語のgoldの意味で使われることが多いと思います。しかし、このコラムにもしばしば登場する「金文」は、青銅に描かれた文字を指します。金は、必ずしもゴールドを意味するものではなかったようです。

 中国の字書「説文解字」には「金は五色の金属のことである。黄色のものを最高とする。長い時期埋めても表面にさびを生ぜず、100回精錬しても重量は変わらない。いかなる形成にもなじんで無理がない。(五行では)西方の行である。土中から産出するので、「土」から構成される。「土」の左右の注(しるし)は、金属が土の中にある様子をかたどる」と書かれています。ここでは金属全般を「金」と称しており、五色の金属というのは「金(黄金)・銀(白金)・銅(赤金)・鉄(黒金)・錫(青金)」を指したようです。しかし、その中で最も美しい黄金(gold)を特に「金」と言うようになったのです。

 説文解字にもあるように、「金」は「今」と「土」と「点点」の組み合わせで構成されています。「キン」「コン」の音は「今」が担っているのです。「今」は「kinsakuji.png+一」から成り立っているとも言われ、何かを含んでおさえている様子を表しています。これらのことから「金」は、土の中に含まれた点点(金属=砂金)を表したものだと言われています。

 古代中国の語学書「釈名(しゃくみょう)」には、「金は禁である。その気が剛厳で(激しくて)よく禁制する(押さえる)からである」と書かれています。「禁」には「中に入れてふさぐ」というイメージを持っているという説もあり、「金」との共通性をみることができます。

 goldが貴重だったため、「金」は「金額」「金銭」など通貨の意味を持ったり、「金言」などのように貴いもの、立派なものを指したりするようになりました。さらに「金剛」など堅固なもののたとえにも使われました。将棋の駒の一つ「金将」は、日本独自に用いられるようになったものです。

≪参考資料≫

「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索サイト)を通して参照

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「金」を調べよう

≪著者紹介≫

前田安正(まえだ・やすまさ)
朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長
1955年福岡県生まれ。早稲田大学卒業。1982年朝日新聞社入社。名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センター長、用語幹事、東京本社校閲センター長などを経て、現職。
朝日カルチャーセンター立川教室で文章講座「声に出して書くエッセイ」、企業の広報研修などに出講。
主な著書に『漢字んな話』『漢字んな話2』(以上、三省堂)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』『「なぜ」と「どうして」を押さえて しっかり!まとまった!文章を書く』『間違えやすい日本語』(以上、すばる舎)。

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