歴史・文化

漢字コラム25「初」「衣」を「刀」でどうするの?

漢字コラム25「初」「衣」を「刀」でどうするの?

著者:前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)

 年が改まりました。元旦は穏やかな天気だったので、初日の出をご覧になった方も多かったのではないでしょうか。年初から問題です。「初」という字には、なぜ「刀」がついているのでしょう。

 中国の字書「説文解字(せつもんかいじ)」には「刀と衣で構成される。衣を作るために布を裁断するはじめである」と記されています。ここでいう「衣」は「ころもへん(衤)」で表されています。「刀」は「刃物」や「刃物を使う」ことです。衣類を作るために素材の布に切れ目を入れることが、ものの第一歩であるという解釈です。「作」や「創」も「切れ目を入れる」という基本的な意味が共通するので、「初」と同様、「はじめる」「はじめて」というイメージがあるとされます。

 また、「初」で示されている「衣」が、神衣や祭衣など祭祀(さいし)や儀礼で使う神聖なものであるという説もあります。特別なときにまっさらな布で衣を作るという、神聖な意味合いが含まれているというのです。正月に新しい下着を身につけたり、歯ブラシを新しくしたりする方も多いのではないでしょうか。やや感覚的ではありますが、「初」には、あらたまったときの、身の引き締まる思いが重ねられているのかもしれません。

 ところで、「初日の出」の「初=はつ」を、音読みだと思っている方も多いのではないでしょうか。「はつ」は二音で歯切れもいいので、昔の中国語の発音を元にした音読みのような気がしますね。ところが、「はつ」は、訓読みなのです。しかも「初日の出」の「はつ」、「初陣」の「うい」、「書き初め」の「そ(め)」は、これらは日本語独特の用法で、もともと漢語にはなかった意味なのです。

≪参考資料≫

「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索サイト)を通して参照

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「初」を調べよう

≪著者紹介≫

前田安正(まえだ・やすまさ)
朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長
1955年福岡県生まれ。早稲田大学卒業。1982年朝日新聞社入社。名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センター長、用語幹事、東京本社校閲センター長などを経て、現職。
朝日カルチャーセンター立川教室で文章講座「声に出して書くエッセイ」、企業の広報研修などに出講。
主な著書に『漢字んな話』『漢字んな話2』(以上、三省堂)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』『「なぜ」と「どうして」を押さえて しっかり!まとまった!文章を書く』『間違えやすい日本語』(以上、すばる舎)。

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