歴史・文化

漢字コラム31「条」その先にある細い一筋

漢字コラム31「条」その先にある細い一筋

著者:前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)

 新緑の季節になりました。まだ日焼けしていない薄緑の若葉が、細い枝に顔を出しています。この情景に「条」が関係しているのをご存じですか?条約、条項、条件、条理など、比較的硬い言葉に使われることも多い「条」について、考えてみます。

 「条」の旧字体は「條」です。「条」の字源は旧字体から見ていきます。「條」は「攸」と「木」で構成されています。「攵」の下に「木」が潜り込んだ形だということがわかると思います。「攵」は「改」「攻」などのように、「攴」(ぼくづくり)が旁になったときの形です。「攴」には「軽くたたく」「打つ」という意味があります。「攸」は「人+水+攴」で出来ています。「人」は「亻」、「水」は「丨」、「攴」は「攵」の形で表されているという説があります。これによると「攸」は人の背後に水をかけて、身を滌(あら)い清めること、つまりみそぎのことだと言います。「條」は、あらい清める時に使う枝葉を束ねたもののことだと言います。

 一方、「攸」は「人+水の垂れるさま+攴(動詞の記号)」からなり、人の背に長く細く水を注いで垢を落とすさま、いわゆる行水のことだと言います。「攸」は「滌」(デキ、ジョウ)の原字だとされています。「滌」は「あらう」という意味で、洗滌(せんでき、せんじょう=洗浄)などの言葉があります。「攸」には「細く長い」というイメージがあるため、これに「木」がついた「條」は、細長い枝のことだと説明されています。

 アプローチはそれぞれ違いますが、「条(條)」が「枝葉を束ねたもの」「細長い枝」という具合に、着地点はほぼ同じです。中国の字書「説文解字」にも「小さな枝」とあります。「枝」が木の幹から別れた部分、「条(條)」が枝からさらに伸びた末端の細い部分です。ちなみに、木の幹のことを「枚」と言います。「条枚(じょうばい)」は「枝と幹」という意味の言葉です。

 いまの京都市に設けられた都・平安京は、中国の唐の都・長安を基に造られました。平安京は南北に走る9本の道と、それに直角に交わる東西12本の道を基本に造られました。東西の道のうち9本を一条、二条というふうに呼ぶようになったものです。明治時代には、京都の町並みをお手本に造った札幌の町も、碁盤の目のようになっています。住居表示などにも使われる「条」は、細長い筋をなしたものを指しています。「暗闇に一条の光が射した」という表現にも、同様のイメージが含まれています。

 短く一筋ずつ書かれたものを「箇条書き」、約束事や契約など箇条書きのそれぞれの内容を「条件」、箇条書きのようにまとめたものを「条文」、箇条書の約束、条目をあげた約定を「条約」というのです。

 何気なく見上げる木の枝のさらに先に伸びた部分にさえも、古人の持っていた生活習慣や価値観が、漢字の中にひっそりと息づいているのです。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「条」を調べよう

≪参考資料≫

「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索サイト)を通して参照

≪著者紹介≫

前田安正(まえだ・やすまさ) 
朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長 1955年福岡県生まれ。
早稲田大学卒業。1982年朝日新聞社入社。名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センター長、用語幹事、東京本社校閲センター長などを経て、現職。
朝日カルチャーセンター立川教室で文章講座「声に出して書くエッセイ」、企業の広報研修などに出講。
主な著書に『漢字んな話』『漢字んな話2』(以上、三省堂)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』『「なぜ」と「どうして」を押さえて しっかり!まとまった!文章を書く』『間違えやすい日本語』(以上、すばる舎)。2017年4月に『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)を発売。amazon 論文作法・文章技術部門で売れ筋ランキング上位をキープ。

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