四字熟語根掘り葉掘り1:ほんとうは6つあった「冠婚葬祭」の話

著者:円満字二郎(フリーライター兼編集者)
四字熟語と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。なんだか難しくて厄介な存在だと思っている方もいるかもしれませんね。漢検でもよく出題される分野ですが、苦手という方は多いようです。
そこで、このたび、辞書編集者の円満字二郎さんに、四字熟語についてのコラムを連載いただくことになりました。四字熟語なんて普段あまり使わないという方にも、四字熟語に隠された意外な歴史や意味を知ることで、「面白い!」と思っていただけたらと思います。記念すべき第1回目のコラムは、私たちの生活に身近な「冠婚葬祭」のお話です。
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辞書作りをしていると、いろいろな〈ことば〉の前で立ち止まり、考え込んでしまうことがあります。このコラムでは、私のそんな経験から、四字熟語に関するあれやこれやを、お話していくことにいたしましょう。
年が明けると、すぐにやってくるのが成人の日。現在の成人式は、昭和の時代、第二次世界大戦が終わった後になって生まれた風習ですが、大人の仲間入りをしたことを認める儀式は、昔から行われていました。
古代の中国では、それを「冠(かん)」と呼んでいました。当時、頭に冠をかぶるのは、成人男性の証。男の子は20歳になると、それを初めて着ける儀式を行って、大人の仲間入りをしたのです。
「冠婚葬祭」の「冠」とは、そのこと。ちなみに「祭」は、〈先祖の霊をおまつりする儀式〉ですから、現在の「法事」にあたります。この四字熟語は、成人の儀式と結婚式、お葬式、そして法事を指しているというわけ。そこから、〈慶弔の儀式〉を広く指して使われるようになりました。
でも、こうやって分解してみると、結婚したらその次はお葬式だなんて、ずいぶん間をすっ飛ばしている気がしませんか? もちろん、他人の結婚式やお葬式に出ることも多いわけですが、それにしても、ほかに儀式はないんかいな、と思ってしまいます。
調べてみますと、「冠婚葬祭」は、中国は儒教の経典の1つ、『礼記(らいき)』に基づくことば。その原文は、漢字はちょっと違いますが、次のようになっています。
「六礼とは、冠・昏・喪・祭・郷・相見なり。」
やっぱりありましたね! 「冠」「婚」「葬」「祭」以外の儀式が。
「郷」とは、地元での宴会。「相見」とは、公式の場での顔合わせ。現在にたとえれば、町内会の飲み会と、仕事関係の会合といったところ。これぞ、〈大人の付き合い〉という感じがしてきましたよ。
つまり、「冠婚葬祭」には、省略されてはいるけれど、さまざまな〈大人の付き合い〉が含まれている、という次第。よきにつけ悪しきにつけ、〈社会人〉というものを感じさせる四字熟語なのです。
≪著者紹介≫
円満字二郎(えんまんじ・じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)など。2018年1月、新著『雨かんむり漢字読本』(草思社)を刊行予定。
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/