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四字熟語根掘り葉掘り5:「黄塵万丈」の原因は何?
2018.03.05
春になると、日本列島では、中国大陸から飛んできた細かい砂粒によって、空が黄色く染まることがあります。いわゆる「黄砂(こうさ)」です。
この黄砂、遠く離れた日本まで飛んでくるくらいですから、本場の中国北部での砂嵐は、相当なもの。江戸時代の鎖国が終わり、明治になってはるばると中国の地へと旅した日本人は、さぞかし驚いたことでしょう。
〈砂煙が非常に高く上がるようす〉を意味する「黄塵万丈(こうじんばんじょう)」という四字熟語がよく使われるようになったのは、それ以後のこと。大正時代になると、「黄塵」は春の季語として、俳句にも詠まれるようになっていきます。
ただ、この四字熟語、黄砂の本場、中国の古い文献には、あまり出てきません。「黄塵」は、向こうの人々にとっては日常生活の一部ですから、わざわざ「万丈(数万メートル)」などとおおげさに表現してみせるほどのことでもなかったのでしょうか……。
もっとも、「黄塵」が「万丈」であるという表現は、中国の詩文にまったく出て来ないわけではありません。とはいえ、その使われ方を見ると、日本の「黄塵万丈」とは、どうもようすが違います。
日本に住む私たちにとって、「黄塵万丈」とは、自然の驚異。砂漠地帯を行く車が立てる土煙を表すこともありますが、それとて、砂漠という圧倒的な自然を背景にしてこその表現でしょう。
一方、中国の詩文に「黄塵万丈」が初めて登場するのは、私が見つけた範囲では、13世紀ごろのこと。類似の「紅塵万丈」という表現もあって、どちらも、〈都会の道を行く人や車が、盛んに土ぼこりを立てるようす〉を指して使われています。都会から遠く離れた、自然に囲まれた別天地のすばらしさをうたうための、道具立てなのです。
「黄塵」が人間が住む俗世間の象徴だったとは、ちょっと意外。でも、昨今ではPM2.5なるものが登場して、黄砂も人為的なものに置き換わりつつあります。とすれば、1000年近くもの時を超えて、中国の文人たちは現代の公害をすでに予見していた、と言えるのかもしれません。
<参考リンク>
漢字ペディアで「黄塵万丈」を調べよう。
<著者紹介>
円満字二郎(えんまんじ じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字ときあかし辞典』『部首ときあかし辞典』『漢字の使い分けときあかし辞典』(以上、研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)など。新著『雨かんむり漢字読本』(草思社)が発売中!
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/
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