四字熟語根掘り葉掘り6:「意気揚々」はかかあ天下の証し

著者:円満字二郎(フリーライター兼編集者)
昔むかし、中国に、晏嬰(あんえい)という人物がおりました。この男、小男で風采は上がらないのですが、その実は、大人物。当時の超大国の1つ、斉(せい)という国の宰相を務め、その名声は周辺諸国に鳴り響いておりました。
晏嬰さんは、外出するときはいつも、大きな屋根が付いた、四頭立ての立派な馬車に乗っています。あるとき、その馬車の御者をしている男の妻が、出かけていく馬車のようすを、門のすきまから眺めておりました。立派な馬車の御者席におさまった夫は、「意気揚々」として、まったく得意なようすです。
ところが、しばらくして夫が帰ってくると、この妻、なんと、離縁を申し込んだのです!
彼女の言い分は、こうです。「晏嬰さまは小男だけれど、いかにも思慮深そうで、しかもいつもへりくだっていらっしゃる。それなのに、あなたは図体ばかり立派で、御者の地位にすっかり満足のごようす。そんな人と添い遂げるつもりはありません!」
ここまで言われたこの夫、以後は、御者の席でふんぞり返ることはなくなりました。すると、さすがは晏嬰さん。その変化に気づきます。わけを聞いて、見どころがあるやつだと思い、ちょっと上級の職に就けてやった、ということです。
以上は、中国の歴史書『史記』に出て来る、有名なお話。史実としては、紀元前6世紀のできごとです。「意気揚々」とは、ここから生まれた四字熟語で、〈得意になっているようす〉を表します。
ただ、興味深いのは、この四字熟語は、今でも、「意気揚々と出かける」「意気揚々と引き上げる」など、移動の場面で使われることが多い、ということです。
昔の人たちにとって、「意気揚々」ということばは、立派な馬車の御者席で、ふんぞりかえって手綱を握っている御者の姿をイメージさせるものだったのでしょう。となると、自分でこの四字熟語を使うときも、勢い、移動の場面が多くなります。
その結果、後の時代の人たちも、移動の場面で「意気揚々」に接することが多くなり、それが現在まで受け継がれているのではないでしょうか。
「意気揚々」の中には、2000年以上も前からこのことばを使い続けてきた人たちの体験が、刻み込まれているのです。
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≪著者紹介≫
円満字二郎(えんまんじ・じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)など。
また、東京の学習院さくらアカデミー、名古屋の栄中日文化センターにて、社会人向けの漢字や四字熟語の講座を開催中。4月以降の詳細は、下記へ。
・学習院さくらアカデミー:漢字(http://g-sakura-academy.jp/course/detail/2018/A/020/)
・学習院さくらアカデミー:四字熟語(http://g-sakura-academy.jp/course/detail/2018/A/021/)
・栄中日文化センター:漢字(http://www.chunichi-culture.com/programs/program_174268.html)
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/
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