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四字熟語根掘り葉掘り7:母は強くて「自信満々」
2018.04.02
ことばとはおもしろいもので、何かを強調すればするほど、かえって逆のことを強調してしまうことがあります。「きらい」と言えば言うほど「実は好きなんじゃないか」と思われてしまうなんてことは、よくありますよね。
四字熟語も一種の強調表現ですから、そんなはたらきをすることがあります。そういう意味でおもしろいのは、テレビドラマでも大ヒットした、池井戸潤さんの『下町ロケット』。この小説の中には、「自信満々」という四字熟語が、私の数えたところでは4回、登場します。
最初に「自信満々」になるのは、ナカシマ工業という会社のグループマネージャー。主人公たちの小さな会社、佃製作所に対して、特許侵害訴訟をふっかけ、裁判で白黒つけましょうと言って、「自信満々」で電話を切ります。しかし、このワルい会社は、結局、裁判で負けてしまうことになるのです。
2回目は、佃製作所の顧問弁護士。この人は、損害賠償訴訟のときは「自信満々」なのですが、特許侵害訴訟になると経験がなく、見る影もなくなってしまいます。
3回目は、帝国重工という超巨大企業の部長。佃製作所など吹けば飛ぶような会社だと思って「自信満々」でいると、これまた見事にしてやられることになるのです。
つまり、この小説では、「自信満々」な人物が次々に登場しては、その自信を打ち砕かれていく、という次第。自信なんていかにもろいものかということが、「自信満々」という四字熟語を使って表現されているのです。
ところが、4回目だけは異なります。この小説で最後に「自信満々」が出て来るのは、主人公が、娘との関係に悩みながらも、帝国重工での製品テストという大一番へと臨む場面。主人公の母が息子に向かって、「親が自分の夢をかなえる瞬間、娘に見せてやりな」と「自信満々」で言うのです。
そして、お約束ではありますが、この「自信」だけは、打ち砕かれません。母親が我が子に対して持つ「自信」は、なまじっかな男どもが自分の仕事に対して勝手に抱いている「自信」とは、全然レベルが違うのです。
「自信満々」なんて、ありふれた四字熟語ですよね? でも、よくできた小説の中で使われると、こんな輝きを見せることがあるのです。
<参考リンク>
漢字ペディアで「自信」を調べよう。
漢字ペディアで「満満」を調べよう。
<著者紹介>
円満字二郎(えんまんじ じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)など。
また、東京の学習院さくらアカデミー、名古屋の栄中日文化センターにて、社会人向けの漢字や四字熟語の講座を開催中。4月以降の詳細は、下記へ。
・学習院さくらアカデミー:漢字(http://g-sakura-academy.jp/course/detail/2018/A/020/)
・学習院さくらアカデミー:四字熟語(http://g-sakura-academy.jp/course/detail/2018/A/021/)
・栄中日文化センター:漢字(http://www.chunichi-culture.com/programs/program_174268.html)
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/
<記事画像>
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