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四字熟語根掘り葉掘り11:「三位一体」に苦労した話
2018.05.28
漢字とは不思議なもので、それまで何の疑問も抱いていなかった漢字が、急に、よくわからなくなってしまうことがあります。先日も、四字熟語の辞書の原稿を書いていて、「三位一体(さんみいったい)」ということばまで進んで来たときに、ふとした疑問にとらわれました。
「三位一体」の「位」とは、いったいどういう意味なのでしょうか?
この漢字を「い」ではなく「み」と読む理由ならば、以前にも調べたことがあるので、わかります。「三」という漢字は、昔の中国語ではsamのような発音がされており、それを取り入れた平安時代ごろの日本語でも、「さむ」に近い読み方がされていました。その「む」の影響を受けて、「位」の「い」が「み」に変化したのです。
でも、この「位」の意味は、なんなのか? 「かけっこで三位になった」という時の「位」でないことは、明らかでしょう。
「三位一体」とは、〈3つのものが切り離せないほど強く結びついている〉をという意味。もともとは、キリスト教の教理に由来することばで、〈父である神〉と〈子であるイエス〉と〈聖霊〉とが1つであることを意味しています。
ここで、聖霊とは何か? という新たな疑問に出会うわけですが、これは、考え出すと神学論争にまで発展してしまうというシロモノ。深入りは避けて、とにかく、神やイエスと一体なのですから、そういう尊い存在なのだろうと理解しておくしかありません。
となれば、「三位一体」の「位」は、神やイエスや聖霊といった、〈霊的な存在〉を指しているのではないかと思われます。しかし、手元にあるいくつかの漢和辞典で「位」を調べてみても、そういう意味は、出てきません。
こういうときには、もっと大きな辞書を調べてみてもいいのですが、私は、自分で意味探しをしてみることにしています。つまり、〈霊的な存在〉を指して「位」を用いた例がほかにないか、いろいろな熟語を当たってみるのです。
すると、それらしきものが見つかりました。それは、「位牌」。「位」にはもともとこういう用法があり、昔の人はそれを踏まえて、キリスト教の教えを「三位一体」と翻訳したのではないでしょうか。
それにしても、お仏壇と教会がこんなところでつながっているなんて……。なんだか奇妙な気分になったことでした。
<参考リンク>
漢字ペディアで「三位一体」を調べよう。
<著者紹介>
円満字二郎(えんまんじ じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)など。
また、東京の学習院さくらアカデミー、名古屋の栄中日文化センターにて、社会人向けの漢字や四字熟語の講座を開催中。
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/
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