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四字熟語根掘り葉掘り17:意外と盲点?「白昼堂々」の話
2018.08.20
ある辞書に、どんなことばを収録するか? それは、その辞書を作る人々が独自に用意した資料に基づきつつ、既刊の同種の辞書の収録語も参考にして、決められます。
私が現在、仕事を進めている四字熟語辞典の場合、長年、日々の読書をしながら取りためてきた5万例近い用例集が、基礎資料。これと、既刊の四字熟語辞典の収録語を対比して、収録語を決めています。
その作業をしている段階で、「あれっ、こんなことばが今までの辞書には収録されていなかったんだ」と思うことがありました。その代表が、「白昼堂々(はくちゅうどうどう)」です。
これは、〈真っ昼間に、物怖じせずに何かを行うようす〉を表す表現。ただ、「白昼」=〈真っ昼間〉、「堂々」=〈物怖じせずに〉と分解して理解できるので、4文字まとめて説明するまでもないのかもしれません。
また、特に中国や日本の古典に由来があるわけでもなく、用いられるようになったのも、大正時代ごろ以降のようです。とすれば、四字熟語だとは認識されないのも、しかたがないでしょう。実際、私の手元にある10種類の既刊の四字熟語辞典では、1冊も収録がありませんでした。
とはいえ、もし、「白昼○○」の「○○」に漢字を入れて下さい、というクイズを出したら、世の中の多くの人が、「堂々」と答えるのではないでしょうか?
調べてみると、「白昼」で始まる漢字4文字の表現としては、「白昼公然」もあって、こちらの方がおそらく、「白昼堂々」よりも古くから使われています。にもかかわらず、現在を生きる私たちは、「白昼」のあとには「堂々」を続けたくなるわけで、それは、「白昼堂々」が1つの熟語になっていることの証だといえるでしょう。
さらに、「白昼堂々」には、ほとんどの場合、〈悪いこと〉をするようすを表す、という特徴があります。単に「白昼」と「堂々」をつなぎ合わせただけであれば、〈悪くはないこと〉をする場合に使われてもいいはず。「白昼堂々」には、2文字ずつに分解しただけでは説明しきれない意味があるのです。
というわけで、今年の秋に刊行する予定の私の四字熟語辞典には、「白昼堂々」を収録することにいたしました。今回、私はたまたま、このことばに目をとめましたが、世の中には、日常的に使われる表現でありながら辞典に収録されないでいる四字熟語が、ほかにもたくさんあるのでしょうね……。
<参考リンク>
漢字ペディアで「白昼」を調べよう。
<著者紹介>
円満字二郎(えんまんじ じろう)
フリーライター兼編集者。
1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。
著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)など。
また、東京の学習院さくらアカデミー、名古屋の栄中日文化センターにて、社会人向けの漢字や四字熟語の講座を開催中。
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/
<記事画像>
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