漢字コラム40「刊」間違ったら削って修正

著者:前田安正(朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長)
新聞は月に1回、発行を休む日があります。この日を新聞休刊日といいます。休刊日の「刊」は、刊行、発刊などの言葉があるように「印刷物を発行する」という意味です。この字になぜ、刀を意味する「刂(りっとう)」が付いているのでしょう。「削(る)」「刈(る)」などに、刀に関係することは理解しやすいですね。ところが書物を発行するという意味の「刊」がなぜ「刀」に通じるのか、少し説明が必要かもしれません。
「刊」は「干」と「刂」の組み合わせでできています。「カン」という音を担う「干」は「桿」の原字と言われ、突いたりたたき切ったりするのに使う棒を指したり、まっすぐな棒の柄が付いた武器を指したりします。「刂」は刀のことなので、「刊」は「おので切る」といった意味を表します。
書経・禹貢(うこう)に「山に髄ひて木を刊(き)る」とあるように、「刊」は「(木などを)切る」という意味で使われていました。削ることのできない立派な論議を「不刊之論」などいうように、「けずる」「きざむ」という意味にも加わるようになりました。「改めたり変えたりしないこと」「変わらないこと」を「不刊」と言い、ながく世に伝わり、滅びない古典を「不刊の典」などと言います。
紙が発明される前、字は竹や板に書かれていました。書き損じると、ナイフのようなものでその部分の竹や板を薄く削って、書き直したのです。そこから「刊」には「文章を訂正する」ことを表すようにもなりました。「校正」のことを「刊正」とも言います。やがて、板木に文字を彫って印刷し、書物にして世に出すという意味が「刊」に加わり、現在のように「印刷物を発行する」という使われ方になったのです。
≪参考リンク≫
≪参考資料≫
「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「漢字ときあかし辞典」(研究社、円満字二郎著)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索サイト)を通して参照
前田安正オフィシャルサイト「マジ文ラボ」https://kotoba-design.jp/
≪著者紹介≫
前田安正(まえだ・やすまさ)
朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長 1955年福岡県生まれ。
早稲田大学卒業。1982年朝日新聞社入社。名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センター長、用語幹事、東京本社校閲センター長などを経て、現職。
早稲田大学エクステンションセンター八丁堀校で文章教室を担当、企業の広報研修などに出講。
主な著書に『漢字んな話』『漢字んな話2』(以上、三省堂)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』『「なぜ」と「どうして」を押さえて しっかり!まとまった!文章を書く』『間違えやすい日本語』(以上、すばる舎)。2017年4月発売の『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)は19刷8.4万部を突破。6月に『3行しか書けない人のための文章教室』(朝日新聞出版)を発売。2018年7月に『クレオとパトラのなんでナンデさくぶん』(大和書房)を発売。
一部地域を除き、4月から朝日新聞水曜夕刊にコラム「ことばのたまゆら」を連載(マジ文ラボからも読めます)。
前田安正オフィシャルサイト「マジ文ラボ」はこちら