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新聞漢字あれこれ1 出現頻度数第1位の漢字とは?

新聞漢字あれこれ1 出現頻度数第1位の漢字とは?

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 このたび、「新聞の漢字」についてのコラムを日本経済新聞社の小林肇さんに連載していただくことになりました。校閲部署で長くフォント担当を務め、日々の紙面から珍しい漢字を採集してきた漢字ハンターが、「いま」を映す新聞の漢字を解説してくださいます。どんな漢字が登場するのか、どうぞお楽しみに。

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 新聞で最も多く使われる漢字をご存じでしょうか。少し古い調査になりますが、2006年11~12月の朝日新聞と読売新聞の記事で出現頻度数第1位は「日」だという結果が出ています。ニュース記事には5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)の6要素が基本的に盛り込まれますから、「いつ」を示す何日の「日」が多く使われているというわけです。次いで何年の「年」「大」「人」「国」「会」といった小学校低学年で習う易しい漢字が続き、この傾向は長く変わっていません。新聞の漢字は難しいと思われがちですが、決してそんなことはなく、その基本は常用漢字(2136字、漢検2級程度)です。

 常用漢字表の前書きには「この表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである」とあり、新聞はこれを尊重し常用漢字を中心とした書き方をしています。いろいろな年代の方を広く読者対象とする新聞の場合、漢字が多すぎても少なすぎても読みにくくなってしまいます。新聞から速く正確に情報収集していただくための漢字使用のルールであるとご理解ください。

 とはいえ、新聞は常用漢字だけで作られているわけではありません。人名・地名などの固有名詞には表外漢字(常用漢字表に入っていない漢字)が使われていたり、歴史、文化、芸術などの記事では、ふだん目にしないような特殊な文字が登場したりすることもあります。常用漢字では書き表せないもののなかには〝絶滅危惧種〟のような字が紛れ込んでいることもあり、新聞は一般読者に限らず漢字マニアの方にとっても興味が尽きないものであるといえるでしょう。

 冒頭の出現頻度数調査によると新聞紙面に現れる漢字の約99%は常用漢字。残り約1%のなかに、あっと驚くような文字が潜んでいることがあります。次回からは、新聞から拾い集めた漢字について、そのあれこれをご紹介します。

≪参考資料≫

国立国語研究所『現代新聞の漢字』秀英出版、1976年
文化庁文化部国語課『漢字出現頻度数調査(新聞)』文化庁、2007年
『常用漢字表(平成22年11月30日内閣告示)』文化庁文化部国語課、2011年
小林肇「新聞の外字から見えるもの」明治書院『日本語学』2016年6月号

■新聞の漢字出現頻度数 上位10字

朝日 読売
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10位


出所:文化庁文化部国語課(2007)

≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社編集局記事審査部次長
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。人材教育事業局研修・解説委員などを経て現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。
著書に『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。

≪記事画像≫

yagi / PIXTA(ピクスタ)

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