常用漢字表改定から10年、追加字はどう浸透した?~令和元年度「国語に関する世論調査」結果より~

こんにちは、漢字カフェ担当のキンスケです。
9月25日、文化庁が令和元年度「国語に関する世論調査」の結果を公表しました。今回は、「国語に対する認識」、「外国人と日本語に関する意識」、「敬語に関する言葉遣いに対する印象」、「平成22 年の常用漢字表改定で追加された漢字の印象」、「新しい表現に対する印象や,慣用句等の認識と使用」について調査が行われました。どの分野も気になるところですが、「漢字カフェ」なので、常用漢字の追加字の印象についてご紹介します。
追加された漢字はどれくらい浸透しているのかの調査
平成22年の常用漢字表改定で追加された196字のうち、平成21年度調査で「漢字を使うことで,意味の把握が容易になる」と回答した人の割合が70%以下であった55 の漢字による表記を対象に、国民の意識の推移を確認するために令和元年度・令和2年度の2回に分けて同じ質問調査が行われることになりました。
今回対象となった28の漢字を含む文は、以下の通りです(下線部が追加された漢字)。
(1) 気持ちが萎縮する (2) 彼は驚くほど語彙が豊富だ (3) 憂鬱な気分が続く (4) 歯牙にも掛けない (5) 氏名を楷書で書く (6) 俳諧の研究を続ける (7) 決戦の火蓋を切る (8) 名誉を毀損する (9) 錦秋の京都を訪ねる (10) 彼の将来を危惧する (11) 右舷前方に見える客船 (12) 禁錮5年の判決 (13) 西欧文明への憧憬 (14) 不安が払拭できない (15) 凄惨な光景に立ち尽くす (16) 羨望の的となる (17) 無用な詮索はしない (18) サケが急流を遡上する (19) 未曽有の大事件 (20) 経営が破綻する (21) 緻密な調査を行う (22) 道路工事の進捗状況 (23) 赤字を補塡する (24) 汎用性の高い機械 (25) 事実を隠蔽する (26) 人形浄瑠璃の上演 (27) 賄賂を受け取る (28) 山麓に広がる牧場
「それぞれの文を読んでどのように感じるか」という問いに「漢字を使うことで,意味の把握が容易になる」「読みにくいので,振り仮名を付けるのが望ましい」「読みにくいので,仮名書きが望ましい」「分からない」の四択で回答するものでした。
「破綻」「禁錮」「火蓋」「危惧」は大半が「漢字使用で意味がわかりやすい」。「語彙」「錦秋」「憧憬」は半数以上が「振り仮名が望ましい」
調査の結果、「漢字を使うことで,意味の把握が容易になる」は、割合が高い順に、「(20)経営が破綻する」(65.7%)、「(12)禁錮5年の判決」(59.9%)、「(7)決戦の火蓋を切る」と「(10)彼の将来を危惧する」(それぞれ58.3%)となりました。
一方、「読みにくいので,振り仮名を付けるのが望ましい」は、割合が高い順に、「(2)彼は驚くほど語彙が豊富だ」(60.9%)、「(9)錦秋の京都を訪ねる」(57.4%)、「(13)西欧文明への憧憬」(55.4%)、さらに、「読みにくいので,仮名書きが望ましい」は、「(2)彼は驚くほど語彙が豊富だ」(11.6%)、「(8)名誉を毀損する」(11.5%)、「(13)西欧文明への憧憬」(11.4%)となりました。
「隠蔽」「憂鬱」「毀損」は10年前より浸透。一方、「錦秋」「浄瑠璃」「歯牙」は読みにくいと感じる人が増
また、平成21年度調査と比較して、「漢字を使うことで,意味の把握が容易になる」が5 ポイント以上増加しているのは、「(25)隠蔽」(8ポイント増)、「(3)憂鬱」(6ポイント増)、「(8)毀損」(5ポイント増)でした。
一方、「読みにくいので,振り仮名を付けるのが望ましい」が10 ポイント以上増加しているのは、「(9)錦秋」(14ポイント増)、「(26)浄瑠璃」(12ポイント増)、「(4)歯牙」(11ポイント増)、「(5)楷書」(10ポイント増)という結果に。
さらに、「読みにくいので,仮名書きが望ましい」が4 ポイント以上増加しているのは、「(4)歯牙」(5ポイント増)、「(6)俳諧」(4ポイント増)、「(13)憧憬」(4ポイント増)、「(9)錦秋」(4ポイント増)となりました。
「隠蔽」「憂鬱」「毀損」といった、新聞・Web・テレビ等で目にしたり耳にしたりすることの多い言葉に使われる漢字は10年前よりも浸透している一方で、「錦秋」「浄瑠璃」「歯牙」など、日常であまり目にしない、または使用場面やジャンルが限られている言葉の漢字の場合は、読みにくいと回答する人が増えているようです。
漢検2級は意外とスゴイのでは!?
そもそも常用漢字とは、「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」として内閣告示された「常用漢字表」に掲載されている漢字のことを指します。一般的に身につけておきたい漢字能力とも言えますが、今回の調査ではなかなか浸透していない一面も見られました。
ちなみに「漢検」でいえば、2級の配当漢字が平成22年に新しく追加された常用漢字にあたります。2級に合格すれば、常用漢字を読み書きできるレベルといえます。年間15万人ほどが受検している(2019年実績)漢検2級ですが、実は合格率は20%前後。漢検2級を取得しているというのは、皆さんが思っている以上にスゴイことかもしれませんね。
今回の詳しい調査結果や他の調査項目については、文化庁ホームページをご覧ください。
≪参考資料≫
●文化庁 令和元年度「国語に関する世論調査」の結果(PDF)はこちら
●漢検の審査基準はこちら
≪参考リンク≫
漢字ペディアで「語彙」を調べよう
漢字ペディアで「錦秋」を調べよう
漢字ペディアで「憧憬」を調べよう
≪おすすめ記事≫
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≪キンスケ紹介≫
漢字カフェ担当の4年目漢検協会職員。
京都在住で、趣味は読書、博物館・水族館巡り。
好きな食べ物はスイカとおでん。
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アン・デオール/PIXTA