新聞漢字あれこれ114 タンタンメンはどんな麺?
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
1月下旬のこと。社員食堂のサンプルケースをのぞいていたら「坦々うどん」がありました。いったいどんなうどんだったのでしょうか。
タンタンメンは「トウガラシとゴマで味つけをし、ザーサイ・ひき肉などをのせた、四川ふうのからいそば」(三省堂国語辞典第八版)のこと。当然ながら、坦々うどんはこのような味付けの辛いうどんのことです。気になったのはうどんの中身よりも「坦」の字でした。
タンタンメンは「天びん棒で担いで売ったことから」(同)このように呼ばれるとのこと。つまり漢字では「担々麺」と書くはずです。それが手偏と土偏で字が似ていること、同じ読みであり「〔道路などの〕平らなようす」を意味する坦々という語があることから、こうした表記が出てしまうのかもしれません。気づかれにくいのか、かなり浸透しているようで、記事データベースで調べると日本経済新聞の記事にも相当な数の「坦々麺」が登場していました。
ただ、これらがすべて誤字だというわけではありません。記事をひとつひとつ見ていくと、〝正しい〟坦々の存在もありました。ポテトチップスの「花椒香る胡麻坦々」、讃岐うどん専門店の「うま辛坦々うどん」「特製 冷やし坦々うどん」などは商品名やメニューとして実際に「坦々」と書かれていたもので、もとは誤字なのかもしれませんが、固有名詞として扱われているものです。実は私も「坦々」をよく目にしていたためか、初めは「担々」のほうを間違いだと思い込んでいました。国語辞典で天びん棒の由来を知ったのは、恥ずかしながら実はだいぶ後になってからのことです。
食堂で私は「坦々うどん」を注文しませんでしたが、隣のテーブルの人が1人で淡々と食べていたので、ちらっと見てみました。器に少し辛そうな汁とうどんの麺が入ったもので、麺も太めのものでした。きしめんや稲庭うどんのように麺が平たければ「坦々」と表記してもいいのかなとも思いましたが、そんなわけにもいかないでしょう。それこそメニューが間違っていると思われてしまいますよね。
≪参考リンク≫
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漢字ペディアで「坦」を調べよう
漢字ペディアで「担」を調べよう
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。
≪記事画像≫
ささざわ / PIXTA(ピクスタ)