まぎらわしい漢字

新聞漢字あれこれ73 「年封鎖」って何のこと?

新聞漢字あれこれ73 「年封鎖」って何のこと?

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 校閲業務の基本と言えば、原稿の中にある一読して分かるようなミスをまず見落とさないこと。とはいえ、なかには読んでも分からないような入力ミスが潜んでいることがあり、悩まされます。

 新聞は日々のニュースを取り上げていますので、その時々の話題で入力ミスにも〝流行〟が見られることがあります。2020年から続く、新型コロナウイルスの感染拡大も誤りの内容にかなり影響しています。「コロナ禍」(新型コロナウイルス感染拡大という災禍)と「コロナ下」(新型コロナウイルス感染拡大の状況下)は文脈によって使い分けますが、いまだに「コロナ」も見かけますし、最近は「コロナ」なんていうものまで出てきました。終息後の経済を見通した話ではなく、単なる入力ミスでした。

 マスク不足だった2020年4月のある記事では、布マスクの話題で「医療用洗剤」とあると、正しいようにも読めましたが、正しくは「衣料用洗剤」。除菌のため医療用で洗うのかと思ったものの、考えすぎでした。「3密」(密閉、密集、密接)を「3」としてくるミスは、初期のころに比べ減ったものの、「ミルククリームに漬けにしたオレンジピールを……」のように、甘い「蜜」であるべきものが、3密の「密」に化けるようなことが増えています。頻繁に使う語が変換候補の上位に来るのは仕方がないとはいえ、「感染道路」(正しくは幹線道路)のようなミスはいただけません。

 新型コロナワクチンの接種が国内でも5月から本格的に始まりました。最近では「接種」と「摂取」の変換ミスが目立って増えています。緊急事態宣言下の街中の「人出」の増減が報道されていましたが、こちらも「人」になっていることがよくあります。雇用関係の記事で「人不足」というものまで出てきました。このコラムの見出し「年封鎖」はロックダウンの「都市封鎖」の誤り。締め切り時間に追われて慌てて「年封鎖」とつけた見出しでしたが、あまりにひどい間違いですね。

 連載の第72回では「コロナとの戦い」について書きましたが、校閲記者もこうした流行のミスと戦い続けています。今回紹介したものは単純な誤変換ではありますが、時の流れやニュースにあわせて気をつけるポイントは変わり、それに対応するのが私たちの役目になってきます。ワクチン接種が進み、感染者数も「収束」に向かってほしいところですが、まだまだ油断はできません。完全なる「終息」へ向けて、私たちもミスが表に出ないよう努めます。

≪参考資料≫

高松美聖「校閲記者のこの一語㉓ コロナ禍の下で」『日本語学 2020年冬号』明治書院、2020年
『マスコミ用語担当者がつくった 使える!用字用語辞典』三省堂、2020年

≪参考リンク≫

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。
2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

まちゃー/PIXTA(ピクスタ)

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