新聞漢字あれこれ185 「辣」 新聞にもしっかり定着しました
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
2025年12月に公開された日経POS情報の「麻婆から担々、そしてマーラーへ」というコラム。これは「日経POS情報」を分析した調査リポートで、花椒(かしょう)の「麻(マー)」と唐辛子の「辣(ラー)」がもたらす辛さや香りが、日本の食卓に浸透しつつあるとしていました。
「日経POS情報」とは日本経済新聞社が独自に全国のスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストアから収集するPOS(販売時点情報管理)データサービスのことで、加工食品・酒類・日用品などの販売実績データが日々更新されています。リポートによれば、「麻辣」を商品名に用いた食品の売り上げが急成長しているとのこと。確かにスーパーやコンビニなどでよく「麻辣」を見かけるようになりましたし、街中では専門店も見かけます。
それならば「麻辣」の新聞での登場回数も増えているに違いありません。記事データベース「日経テレコン」を用いて、2000年以降に日本経済新聞朝夕刊と日経MJ(流通新聞)で「麻辣」が出現した記事件数を調べてみました。あわせて「辣」自体の出現記事件数も調べてみることにしました。

グラフを見てください。1年ごとの件数を比較すると、「麻辣」の記事が急増したのが2019年だと分かります。それまで1桁だったのが、25件にもなりました。記事では外食の新メニューや、カップ麺、米菓、調味料などの新製品が相次いで取り上げられていました。7月下旬に発売されたばかりのカップ麺が、8月に入り2週連続でPOSデータの週間ランキングで1位になったという記事もありましたので、この頃から「麻辣」味の人気が定着したことがうかがえます。
現代日本語の姿を忠実に反映するといわれる『三省堂国語辞典』では第七版(2014年)にはなかった「マーラー」の項目が第八版(2022年)に掲載されました。辞典の編集期間を考えれば、やはり2010年代後半あたりを人気の定着時期と見てよいのかもしれません。また、記憶に新しいところでは、2025年の「新語・流行語大賞」のノミネート語30に「麻辣湯」が入っています。最終的にトップ10には選ばれませんでしたが、今後も「麻辣」の文字を目にすることは続きそうです。
ちなみに「辣」の出現記事件数が増え始めたのは「麻辣」よりも早い2011年から。これは2010年11月に常用漢字表が改定されたことが大きく影響しています。漢字表に追加された196字のうちのひとつが「辣」で、新聞ではそれまで表外字の「辣」を含む熟語などは原則使用しない取り決めがありました。例えば「辛辣」は「痛烈、手厳しい、辛口(の)、容赦ない」に、「辣腕」は「すご腕、腕利き、敏腕、怪腕」などと言い換えるようにしていたのです。どちらもよく使われる語であり、「辣」が常用漢字に入ったのも当然だったといえるでしょう。
次回、新聞漢字あれこれ第186回は3月4日(水)に公開予定です。
≪参考資料≫
『漢字ときあかし辞典』研究社、2012年
『三省堂国語辞典』第八版、三省堂、2022年
『新潮日本語漢字辞典』新潮社、2007年
『新聞用語集 2007年版』日本新聞協会、2007年
『2010年「改定常用漢字表」対応 新聞用語集 追補版』日本新聞協会、2010年
≪参考リンク≫
「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「辣」を調べてみよう
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。
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メイン画像:著者撮影