新聞漢字あれこれ183 気になる「出生」の読み方
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
テレビのワイドショーを視聴していたときに、コメンテーターが「出生」を「しゅっせい」と言っていたのが気になりました。
言い間違いだから気になったというわけではありません。私は「出生」を「しゅっしょう」と読みますが、現在は「しゅっしょう」「しゅっせい」のどちらで読んでも正しい読み方とされています。参考に『NHK 日本語発音アクセント新辞典』(NHK出版)を見ると、第一に推奨されるのが「シュッショー」で、「シュッセー」は許容と示されていました。
伝統的な読み方は「しゅっしょう」ではあるものの、「しゅっせい」と読む人が増えていることが放送での「許容」になったわけだと思われますし、そのほかに「しゅっせい」と言っても誤解されないというのも理由にあるのかもしれません。
元千葉大学教授の木村秀次さんは著書『身近な漢語をめぐる』(大修館書店)の中で、「しゅっせい」と読む人が増えた理由に、「生」を「しょう」よりも「せい」と読む熟語のほうが多いこと、第2次世界大戦の終結から時を経て「しゅっせい」と「出征」を結び付ける世代が少なくなったことなどを挙げています。
少し古い調査になりますが、2019年に日経校閲X(旧ツイッター)で「出生」の読み方についてアンケートをとったところ、「しゅっしょう」の21.6%に対し、「しゅっせい」は52%と2倍以上の差となりました。今は「しゅっせい」と読む人の方が多数派で、気になった私のほうが少数派といえそうです。
「小林さんはセロン派なんですね」――。2025年11月29日、語彙・辞書研究会の第68回研究発表会にパネリストとして参加したときに、NHK放送文化研究所の研究員の方に言われました。テーマは「日本語の現在―『国語に関する世論調査』をめぐって―」で、登壇した4人のうち3人が「よろん」と言い、私だけが「せろん」と言っていたのです。実はこのときはかなり緊張していて、私だけが「せろん」と言っていたのには指摘されるまで全く気づきませんでした。やはり他人の読み方の違いは気になるものなのでしょう。その後も複数の人から言われました。
ちなみに、『NHK 日本語発音アクセント新辞典』は「せろん」の読みについては触れていませんが、『新聞・放送用語担当者完全編集 使える! 用字用語辞典』第2版では、「その読みもあるが、放送では使わない」として「せろん」に△印を付けています。私は放送人ではありませんが、今後は「よろん」と読むことにします。
「出生」の読み方のアンケート(日経校閲X)
「出生の秘密が明らかになった」
— 日経 校閲 (@nikkei_kotoba) April 10, 2019
出生届や出生率、出生地……。出生は「しゅっしょう」とも「しゅっせい」とも言いますが、みなさんは主にどちらを使いますか。#ことばリサーチ
次回、新聞漢字あれこれ第184回は1月28日(水)に公開予定です。
≪参考資料≫
神永曉『さらに悩ましい国語辞典―辞書編集者を惑わす日本語の不思議!―』時事通信出版局、2017年
木村秀次『身近な漢語をめぐる』大修館書店、2018年
文化庁『言葉に関する問答集 総集編 7刷』全国官報販売協同組合、2017年
『NHK 日本語発音アクセント新辞典』NHK出版、2016年
『新聞・放送用語担当者完全編集 使える! 用字用語辞典』第2版、三省堂、2025年
≪参考リンク≫
「日経校閲X」 はこちら
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。