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小さい赤ちゃんの呼び方~医療の現場より~

小さい赤ちゃんの呼び方~医療の現場より~

著者:久具宏司(東京都立墨東病院医師 産婦人科部長)

 最近、米国で245グラムで生まれた女児がめでたく病院を退院したとのニュースが流れた。無事に育った赤ちゃんの出生時の体重としては世界最小の記録である。2月には日本でも268グラムの赤ちゃんが無事に退院し、これが男児としての現在の世界最小の記録である。昔なら考えられない出来事であり、まことに医療技術の進歩はすばらしいというほかない。

 出生時の体重が1,000グラムに満たない赤ちゃんを医学領域では「超低出生体重児」という。臨月まで進んで生まれる赤ちゃんの多くは2,500グラム以上であり、2,500グラムに満たない赤ちゃんは、「低出生体重児」と呼ばれる。「超低出生体重児」は「低出生体重児」の中でもとくに小さい赤ちゃんを指す。さらに、1,500グラム未満の赤ちゃんを指す「極低出生体重児」という用語もあり、医師や看護師は、生まれた時の体重により使い分けている。この接頭語の、“超”と“極”の順序に筆者は違和感を覚える。

 “超”と“極”、どちらも程度が並外れていることを表す語で、接頭語としていろいろな語句に付いて使われ、流行語や商品名などにも頻繁に登場する。“超”は、「こえる」ことであり、「すぎる」や「すぐれる」、「ひいでる」という意味もある。それに対して“極”は「きわまる」であり、「おわり」、「つきる」、「はて」というニュアンスである。あるレベルをこえた一団が“超”の集団であり、さらにその先端の部分が“極”というイメージである。天文学における“超巨星”や“超新星”、それらのさらにエネルギーの大きなものはそれぞれ“極超巨星”、“極超新星”と呼ばれる。

 そもそもなぜ極低出生体重児や超低出生体重児という用語が作られたのか。元々、出生時の体重の小さい赤ちゃんは「未熟児」と呼ばれており、その中でもとくに小さい1,500グラム未満の赤ちゃんは「極小未熟児」と呼ばれていた。もっと小さな赤ちゃんが育つようになり、1,000グラム未満の児に対しても呼称が必要となり、同時に「低出生体重児」という用語が用いられるようになった。1,500グラム未満に対してはすでに「極小」が使われていたため、そのまま「極低出生体重児」とした。そこで、1,000グラム未満の呼称を「超低出生体重児」という新しい区分を設けた。このような変遷をたどって現在の順序になったのであろう。

 1,000グラム未満の「超低出生体重児」が定義されて久しい。現在では、500グラム未満の赤ちゃんの出産もめずらしくない。将来、500グラム未満の赤ちゃんに対して新たな用語をつける時が来るかもしれない。そのときは、500グラム未満の赤ちゃんを改めて「極低出生体重児」または「極超低出生体重児」と命名すればよい。その場合に、1,500グラム未満の赤ちゃんを、「過低出生体重児」または「特低出生体重児」に改めれば順序がすっきりする。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「超」を調べよう。
漢字ペディアで「極」を調べよう。

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≪著者紹介≫

久具宏司(くぐ・こうじ)
東京都立墨東病院医師(産婦人科部長)
1957年福岡市生まれ。1982年東京大学医学部卒業、東京大学医学部を中心に、医学教育・研究、医療実践に従事。
米国ジョンズ・ホプキンス大学留学後、東京大学講師、東邦大学教授を経て、現職。
産婦人科領域を中心に医学用語・用字の適切さの検討を進める。日本産科婦人科学会など諸学会の用語委員会委員長。
「子宮外妊娠」を実態に合わせて「異所性妊娠」に修正するよう提言した。医療倫理にも詳しい。

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