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四字熟語根掘り葉掘り58:「桜花爛漫」には親戚がいっぱい!

2020.03.23

四字熟語根掘り葉掘り58:「桜花爛漫」には親戚がいっぱい!

著者:円満字二郎(フリーライター兼編集者)

 桜の季節がやってきました。今年は新型コロナウイルスの影響でお花見もままならないだけに、それでもきちんと咲いてくれる花のありがたさが、しみじみと感じられます。

 さて、桜に関する四字熟語といえば「桜花爛漫(おうからんまん)」。〈桜の花が咲き乱れるようす〉を表します。ただ、桜の花を愛するのは日本人ならではの感性で、この四字熟語も、おそらく日本で独自に生み出されたものかと思われます。

 中国の詩文では、「○花爛漫」という表現が、北宋王朝の時代、11世紀ごろから使われています。中でも代表的なのは、「桃花爛漫(とうからんまん)」。日本の「桜花爛漫」は、その言い換えとして誕生したものなのでしょう。

 桃であれ桜であれ、その花は、春の日差しの中で華やかに咲きこぼれるもの。その明るい風景には、「爛漫」ということばがいかにもよく似合います。これが梅になると、早春、まだ寒いうちに咲く素朴な花ですから、ちょっと雰囲気が違って感じられますよね?

 しかし、中国の詩文では、「梅花爛漫(ばいからんまん)」という表現もけっこうよく見られます。また、中国語の「爛漫」は、春以外の季節の花についても使われます。「桂花爛漫(けいからんまん)」は金木犀で、「黄花爛漫(おうからんまん)」は菊。「荷花爛漫(かからんまん)」だと蓮の花ですから、季節は夏となります。

 こうして見ると、日本語と中国語とでは、「爛漫」ということばの持つイメージが少し異なるような気がしませんか? 日本語では、明るくて華やかなニュアンスが含まれるのに対して、中国語では、もう少し広く、あふれるような生命力を感じさせる場合に、「爛漫」を用いることができるようです。

 とはいえ、その幅広さは、「爛漫」が元から持っていたものではないかもしれません。なぜなら、中国の詩文には、雪に対して使われた「六花爛漫(りっからんまん)」という表現も見られるからです。雪が生命力をほとばしらせながら乱れ降るというのは、実際の風景というよりは、一種の文学的なレトリックではないでしょうか。

 とすると、中国の詩人たちは、桃のように明るく華やかな花に対して使われていたことばを、その本来の意味を超えて、いわば文学上の冒険として雰囲気の異なるいろいろな花にも用いてみたのではないか、とも思われます。その結果、さまざまな「○花爛漫」という表現の花を咲かせたのでしょう。

 ことばには、現実を超えた世界を表現する力があります。四字熟語だって、もちろんのこと。時には、一編の詩として四字熟語を読み味わってみる。そんな態度も必要であるように思います。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「桜花爛漫」を調べてみよう

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≪著者紹介≫

円満字二郎(えんまんじ・じろう)
フリーライター兼編集者。 1967年兵庫県西宮市生まれ。大学卒業後、出版社で約17年間、国語教科書や漢和辞典などの編集担当者として働く。 著書に、『漢字の使い分けときあかし辞典』(研究社)、『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)、『知るほどに深くなる漢字のツボ』(青春出版社)、『雨かんむり漢字読本』(草思社)など。 また、東京の学習院さくらアカデミー、NHK文化センター青山教室、名古屋の栄中日文化センターにて、社会人向けの漢字や四字熟語の講座を開催中。 最新刊、『漢字の植物苑 花の名前をたずねてみれば』(岩波書店)が2月21日に発売。
●ホームページ:http://bon-emma.my.coocan.jp/

≪記事画像≫

筆者撮影(2012年4月8日)

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