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新聞漢字あれこれ41 「極」の字が持つイメージは?

新聞漢字あれこれ41 「極」の字が持つイメージは?

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 皆さんは「極」の字にどんなイメージを持っていますか。商品名やブランド名で「極」を目にすることが多いように感じます。その意味するところは――。

 2月13日付の日本経済新聞夕刊に、越前がに(ズワイガニ)に「極(きわみ)」というブランドがあるという記事がありました。もともと高級品として知られる越前がにですが、福井県が2015年度から一定以上の大きさで傷がないなどの厳しい基準を設け、それをクリアしたものだけを最高級ブランド「極」として認定しているのだそうです。確かに、ほかにも見かける「極」のつく商品などは高級品が多いように思われます。

 世の中の「極」の商品すべてを確認することはできませんが、新聞記事に登場したものだけでも見ていくと、「極」の使われる傾向が読み取れそうです。試しに2019年の日本経済新聞、日経産業新聞、日経MJ、日経ヴェリタスの各紙で「極」を使う商品やブランド名にどんなものがあったか、記事データベースの日経テレコンを使って調べてみました。

日経テレコンを使って調べた「極」ブランド使う商品一覧

 重複を除き、22の「極」が見つかりました。カニもあれば、プリン、チーズ、日本酒などといった飲食料品が目立ち、ほかに競技用車いす、飲食店名などもありました。名称はズバリ「極」としたもの、商品名の一部に「極」「極み」を使うもの、店名に「極味」を使い「きわみ」と読ませるものもありました。

新聞から集めた「極」の商品・ブランド例.pdf


スーパープレミアムソース「極」

 これらの商品やサービスにほぼ共通するのが「高級」や「こだわり」といったイメージです。原材料や工程にこだわったパン、25種類もの海鮮具材を用いた恵方巻き、国内の高級品をそろえたギフトなど、特別に作られたもので価格が高い傾向が見られます。飯田朝子・中央大学教授の著書『「あ、それ欲しい!」と思わせる 広告コピーのことば辞典』の「きわみ【極み】」の項目には「究極の。最高峰。企業の技術の粋を集めた商品の宣伝に使われる」とありますので、「極→最高峰→高級」という関係になるようです。

 さらに2000年までさかのぼり新聞記事を調査していくと、ごくわずかですが低価格をうたった「極」も見られました。そのひとつが、吉野家ホールディングスが2012年10月に東京都内で2店出店した牛丼専売の格安店「築地吉野家 極」という業態です。記事によれば「創業地のような営業スタイルを『極める』」という意味が込められたネーミングで、3年で100店の出店を目指したものでしたが、従来店との差異化が難しくなり2013年に出店凍結となったそうです。直接関係はないにしろ、「極」と「格安」のイメージが合わなかったのかなどと考えてしまいました。

極み熟成まぐろ

 先日、散歩中に見かけたクリーニング店のポスターには「極」の字が中央に大書されていました(ルビは「きわむ」)。一目見て、きれいに洗濯され熟練の業でアイロンがけされたワイシャツが頭に浮かんできました。漢字には意味があるとともに、多くの人が共通に抱くイメージがあるといえそうです。

極ワイシャツ

≪参考資料≫

飯田朝子『「あ、それ欲しい!」と思わせる 広告コピーのことば辞典』日経BP社、2017年
岩永嘉弘『ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た』日本経済新聞出版社、2017年
円満字二郎『漢字ときあかし辞典』研究社、2012年

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「極」を調べよう
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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 著書などに『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

写真1:ソースのラベル(2020年)
写真2:回転ずしの折り込み広告から(2020年)
写真3:東京都内にあるクリーニング店のポスター(2020年)

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