歴史・文化

漢字コラム48「創」 「傷をつける」は「創造」の始まり?

漢字コラム48「創」 「傷をつける」は「創造」の始まり?

著者:前田安正(未來交創株式会社代表取締役)

「新しいものを独自の考えや技術を使って初めてつくり出すこと」などを「創造」と言います。この場合の「創」は「つくる」「始める」「初めて」という意味があります。一方、「絆創膏(ばんそうこう)」「創傷」「創刃」などの「創」は「傷」という意味です。「創」が持つ二つの意味には、どういうつながりがあるのかを見ていきたいと思います。

 「創」は音を表す「倉」と刀を表す「刂」で構成され、元々「刅」と書かれていました。「刀」は「かたな」です。刀の切れる部分が「刃()=やいば」。刃によって切りつけられた部分、傷を表したものが「刅」です(両刃の刀を指す場合もあります)。「刅」は「」と「一=切りつけられた部分」で構成されています。つまり「創」は「刃によって傷つける」「刃によってできた傷」という意味が原義だと言えます。中国の字書「説文解字」にも「切り傷。と一に従う」とあります。

 これが「つくる」という意味になった理由については諸説あります。その一つに「刀で傷をつけることは、素材に切れ目を入れること」だという解釈があります。つまり、工作の最初の段階を指すというのです。これは「初」が「刀で衣を裁断することが着物作りのはじめ」を意味するという解釈にも通じそうです。

 また「創」の「倉」部分に着目した説もあります。「倉」には「しまいこむ」と「細長い」というイメージがあるので、これによって「奥深い」というイメージが生まれるとの解釈です。奥深い→深く入る・突き刺さる→深く切り込みを入れると展開され、「創」に「切り込みを入れる」という感覚が生まれ、それが「傷」という意味と「素材に切り込みを入れる=始める」という意味の両用を含むようになったのだと言うのです。

 一方、「つくる」「始める」という意味に「創」を用いるのは借用で、本来は「刱(そう)」という字が使われていたとも言われてます。「刱」は「創」の異体字ではなく独立した別の字です。「井」は四角い枠型を描いた象形で、「刱」は刀で素材に枠型を刻み込むことを表しています。最初に枠型を刻むことから「つくり始め」「始める」の意味を持っています。

 「創」に「傷」と「つくる」「始める」「初めて」の意味を持つ根拠について、代表的な説を紹介しました。漢字の構成・組み合わせで生まれるイメージの展開、同音による字の借用。そのどちらも漢字の成り立ちに多く見られる作用です。漢字の成り立ちを見ていくには、こうした解釈の数々を楽しむことが重要なのかもしれません。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「創」を調べよう

≪おすすめ記事≫

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≪参考資料≫

「漢字の起原」(角川書店 加藤常賢著)
「漢字語源辞典」(學燈社 藤堂明保著)
「漢字語源語義辞典」(東京堂出版 加納喜光)
「漢字字源辞典」(角川学芸出版 山田勝美・進藤英幸著)
「言海」(ちくま学芸文庫 大槻文彦)
「学研 新漢和大字典」(学習研究社 普及版)
「全訳 漢辞海」(三省堂 第三版)
「漢字ときあかし辞典」(研究社、円満字二郎著)
「日本国語大辞典」(小学館)、「字通」(平凡社 白川静著)は、ジャパンナレッジ(インターネット辞書・事典検索サイト)を通して参照
前田安正オフィシャルサイト「ことばデザインワークス・マジ文ラボ」https://kotoba-design.jp/

≪著者紹介≫

前田安正(まえだ・やすまさ)
未來交創株式会社代表取締役/ビジョンクリエイター/文筆家
玉川大学文学部非常勤講師
朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了
82年朝日新聞社入社、名古屋編集センター長補佐、大阪校閲センターマネジャー、用語幹事、校閲センター長、編集担当補佐兼経営企画担当補佐などを歴任。「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」「あのとき」など、十数年にわたり朝日新聞に漢字や日本語に関するコラム・エッセイを毎週連載。
2019年文章コンサルティングファーム未來交創株式会社を立ち上げ、わかりやすい文章の書き方、コミュニケーションの楽しさを伝える仕事をしている。「文章の書き方・直し方」など、企業・自治体の広報文の研修に多数出講。テレビ・ラジオ・雑誌・ネットなどのメディアにも数多く登場している。
《著書》
9.1万部を超えた『マジ文章書けないんだけど』(2017年・大和書房/19年・台湾で翻訳出版)を始め、
2010年『漢字んな話』、12年『漢字んな話2』(三省堂)
2013年『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/19年・韓国で翻訳出版)
2014年『間違えやすい日本語』(すばる舎)
2015年『しっかり!まとまった!文章を書く』(すばる舎)
2017年『3行しか書けない人のための文章教室』(朝日新聞出版)
2018年『クレオとパトラのなんでナンデさくぶん』(大和書房/20年・中国で翻訳出版予定)
2019年『ヤバいほど日本語知らないんだけど』(朝日新聞出版)
2020年『ほめ本』(ぱる出版)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(朝日文庫)、『使える!用字用語辞典』(共著・三省堂)
などがある。

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