あの大人気マンガを想起する?この漢字の正体は!?

こんにちは、漢字カフェ担当のキンスケです。
収録字数5万字を誇る『大漢和辞典』(大修館書店)を眺めていると、「」という漢字に出会いました。あの大人気マンガを思い出さずにはいられませんが、さて、いったい何を表す漢字でしょうか?
「人を殺す鬼」?「鬼を退治する人」?
まずは、この「」がどのような「意味」かを一般の方々に問うべく、漢検 漢字博物館・図書館(以下、漢字ミュージアム)前のクイズボードと、漢字ミュージアム公式Twitterにて『奇々怪々!へんな漢字クイズ』を実施しました(1/8~1/17)。
クイズは二択で、①人を殺す鬼 ②鬼を退治する人、どちらかを選んでいただきました。
集計結果は次の通りです。
①人を殺す鬼 208票 (24%)
②鬼を退治する人 658票 (76%)
正解は・・・①人を殺す鬼 です!
正反対の二択ですが、多くの人が ②鬼を退治する人 と予想しました。そこには、あの大人気マンガの影響があるのかもしれません。
時代のトレンドや人々の関心によって、漢字から得られる印象が左右されることの一事例と言えるでしょう。
この「」という漢字は、『大漢和辞典』によると「サイ」と読むようです。約1000年前の中国の辞典『集韻』、『広韻』によると、「
」は「
」と同じで、「羅
」という恐ろしい姿をした鬼の名を表すための字として使われていたそうです。
ルーツをたどると古代インドに!?
この「羅」という鬼について、『広韻』の注釈書、蔡夢麒(さいぼうき)が著した『広韻校釈』によると、「羅
」は「羅刹の別称である」とあります。
この「羅刹」は『漢語大詞典』によると、
和訳:梵語Rakṣasaの略訳。早くインドの『リグ・ヴェーダ』にこの名は見え、もともとは南インド亜大陸に住んでいる人の名前であったとされている。アーリア人がインドを征服したのち、悪人や悪事に遭遇すると、それらを全て“羅刹”と呼ぶようになり、そこから羅刹は悪鬼の名前となった。唐・慧琳の『一切経音義』巻25には「羅刹、此れ悪鬼を云ふなり。人の血肉を食らひ、或いは飛行し或いは地を行き、捷疾なること畏るべきなり。」
とあり、「羅刹」は「人の血肉を喰らい、飛び走る動きの速い鬼」ということがわかります。遭遇してしまったら、ひとたまりもなさそうですね…。
このように、「」という漢字1つを深く調べてみると、古代インドにまでさかのぼることができました。「羅刹」の恐ろしさには衝撃を受けたものの、漢字のグローバルな一面が垣間見え、とても面白い調査でした。
漢字に限らず、身の回りにあるものを深く調べてみると、思いもよらない景色が広がっているかもしれません。皆さんも、身近なものをきっかけに世界を広げてみては?
「漢字5万字タワー」にある「
」を見つけられる?
ちなみに、漢字ミュージアムには、『大漢和辞典』に採録された約5万字の漢字が書かれた「漢字5万字タワー」があります。
「」も5万字の中のどこかに存在しています。果たして見つけられるでしょうか。
新型コロナウイルス感染症の流行が収束しましたら、ぜひ「漢字5万字タワー」のある漢字ミュージアムに遊びにきてください!
「漢字5万字タワー」にある「鬼」を含む漢字
≪参考資料≫
『校正宋本広韻』(藝文印書館、1998年、澤存堂版)
『集韻校本』(趙振鐸校、上海辞書出版社、2012年)
蔡夢麒『広韻校釈』巻下(岳麓書社、2007年)
諸橋轍次『大漢和辞典 修訂第2版』(大修館書店、2000年)
漢語大詞典編纂委員会漢語大詞典編纂処編纂(羅竹風主編)『漢語大詞典』(漢語大詞典出版社、1986-94年、正文12巻版)
教育部異体字字典 はこちら(2021年2月4日 閲覧)
≪参考リンク≫
漢字ペディアで「鬼」を調べよう
漢字ペディアで「殺」を調べよう
漢字ペディアで「魘」を調べよう
≪おすすめ記事≫
あつじ所長の漢字漫談21「鬼」の話 はこちら
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≪キンスケ紹介≫
漢字カフェ担当の4年目漢検協会職員。
京都在住で、趣味は読書、博物館・水族館巡り。
好きな食べ物はスイカとおでん。