難読漢字

新聞漢字あれこれ178 金偏の「超1級漢字」から

新聞漢字あれこれ178 金偏の「超1級漢字」から

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 

 

 新聞ではフォントとして保有していない字を紙面に使う際、作字をすることがあります。作字は記号などもありますが、その多くは漢字で主に人名など固有名詞に使われるものです。今回は日本経済新聞に掲載された作字のなかから、金偏の4字を取り上げてみました。



 「けら」とは伝統製鉄法の「たたら製鉄」でできる粗鋼のことで、2025年4月17日付の日本経済新聞朝刊中国経済面に掲載された「奥出雲の伝統製鉄法、次代に」という記事に出てきました。日本刀づくりでは鉧から不純物などを除いてたまはがねを取り出します。記事は、島根県奥出雲町で続く伝統製法の継承者・堀尾薫さんを紹介し「たたらが生み出す玉鋼でなければ日本刀はつくれない」とありました。玉鋼以外では独特の肌合いや刀紋の美しさが出ないのだといいます。

 202411月3日付の朝刊叙勲面に載った「鈳」という字は、かなり珍しいのではないでしょうか。超1級漢字を追いかける私もこのとき初めて使用例を見ました。『新潮日本語漢字辞典』によれば音読みは「ア」で、意味は小さな釜のこと。愛媛県で受章された方の姓で、1字で「こがま」と読みます。環境依存文字のため、なかなか検索が難しいのですが、愛媛新聞には叙勲記事以外でも姓の使用例が複数見られました。

 鉙は「かんな」と読み、意味は黄金。2023年5月17日付朝刊の「会社人事」に載った企業役員の方で「おおがんな」という姓でした。『増補改訂 JIS漢字字典』は、「鉙内(かんなうち)」という姓、「鉙治(たいじ)」という名前を用例として掲載。また、広島県北広島町には「鉙原(かんなばら)」というバス停があります。

 2021年4月29日付の朝刊叙勲面に載った「鋓」は、「鋓男」という名前で使われていました。常用漢字でも人名用漢字でもないため、現在は命名に使えない字。愛知県に金偏の名前が多いことを取り上げた連載の11で、叙勲記事から採集した字のなかにも「鋓」が入っていました。ちなみにこの「鋓男」という名前の方も愛知県在住でした。愛知県一宮市には「からす」という地名があります。



金偏の4文字のユニコードと読み、紙面採集例を示した表


 今回取り上げた4字は、専門用語が1字(鉧)、姓名が3字(鈳・鉙・鋓)でした。いずれも目にする機会が少ない珍しい字。一部には地域性も見られます。みなさんはいくつご存じでしたか。

 

※作字:印刷用の活字や文字フォントを作ること。また、パソコンなどに登録されていない文字を作成すること。(大辞林第四版から)

※超1級漢字:JIS第1・第2水準以外の漢字のこと。筆者の造語。漢検1級の出題範囲である約6000字がJIS第1・第2水準を目安としていることから。

 


 


次回、新聞漢字あれこれ第179回は11月5日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

小林肇「叙勲記事に見える漢字の地域性―新聞外字調査から―」第115回漢字漢語研究会資料、2018年
小林肇「人名にもある方言漢字―命名の伝承と地域性―」第5回方言漢字サミット資料、2022年
『新潮日本語漢字辞典』新潮社、2007年
『増補改訂 JIS漢字字典』日本規格協会、2002年
『日本行政区画便覧④〔中部〕』日本加除出版

≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。



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