新聞漢字あれこれ195 「勒」人名用漢字に追加されました
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語委員)
戸籍法の施行規則が6月26日に改正され、「勒」が人名用漢字になりました。これにより、子の名付けに使える漢字はちょうど3000字に。人名用漢字が追加されたのは2017年の「渾」以来、9年ぶりのことです。
戸籍法50条では、子の名前には「常用平易な文字を用いなければならない」とあり、これまで命名に使えた漢字は、「常用漢字」2136字と、戸籍法施行規則の一覧表に明記された「人名用漢字」の863字でした。
報道によると、「勒」を使った子供の名前の出生届が自治体に受理されなかった人物が、家裁に不服を申し立てたといいます。家裁では却下されましたが、抗告審で大阪高裁が3月に「社会通念上、明らかに常用平易な文字」と判断し、出生届の受理を命じる決定を出して確定。これを受けて「勒」が人名用漢字に追加されたわけです。
では、常用平易と判断された「勒」は、新聞でどのように使われているのでしょうか。新聞記事データベースサービス「日経テレコン」で、日本経済新聞の朝夕刊で2021~2025年の5年間に「勒」が現れた記事を検索してみました。使用例は68件あり、そのうち65件が「弥勒」または「弥勒」を含むもの。仏教の「弥勒菩薩」をはじめ、「弥勒寺」など国内地名や、姓には「弥勒」「弥勒院」がありました。人名用漢字になる前ですが、名前で使っている人が3人いました。
ひとりは中国人の米勒さんで、日本の名付けの漢字制限には無関係。ほかの2人は日本人でした。2人のうちのひとり、書籍編集者で文筆家の樫辺勒(かしべ・ろく)さんは1961年生まれです。本来なら「勒」は命名に使えなかったはずですが、こちらはペンネームですので常用漢字・人名用漢字の縛りは受けません。もう一人はジュニアゴルファーで知られる須藤弥勒(すとう・みろく)さん。2011年生まれの須藤さんも当時は命名に「勒」は使えなかったはずですので、ひょっとすると本来の名前は違う表記をするのかもしれません。
この夏、刊行されたばかりの笹原宏之・早稲田大学教授編著『実例で読み解く名前の漢字辞典』(大修館書店)は帯の裏側に「名づけの漢字2999字すべてを収録」とうたっています。編集段階で人名用漢字への「勒」の追加は見越していたようで、ページを繰ると「二〇二六年五月現在」との注記がありました。同辞典は、2013~2023年度の日本漢字能力検定の受検者849万人のデータを基に編さんされ、当然ながら「勒」のデータはないものの、現段階ではこれほどの名前のデータを活用した辞典はほかにありません。
これから「勒」がどんな名前に使われていくのか。いずれはっきり分かるのでしょうが、気になるところではあります。

早稲田大学 笹原宏之教授による名前の漢字に関する新刊2冊
(詳細は《参考資料》参照)
次回、新聞漢字あれこれ第196回は8月26日(水)に公開予定です。
≪参考資料≫
笹原宏之『実例で読み解く日本の名前と漢字―「キラキラネーム」にもわけがある―』大修館書店、2026年
『実例で読み解く名前の漢字辞典』大修館書店、2026年
『新潮日本語漢字辞典』新潮社、2007年
『増補改訂JIS漢字字典』日本規格協会、2002年
≪参考リンク≫
「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「勒」を調べてみよう
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語委員
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。記事審査部次長、研修・解説委員、用語幹事などを経て現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。専修大学国際コミュニケーション学部協力講座講師。漢検 認定エキスパート講師。漢字教育士。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『日本語ライブラリー 文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日経BizGateで『誰かに話したくなるビジネス日本語』、三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。