まぎらわしい漢字姓名・名づけ

新聞漢字あれこれ190 「瞳・曈」 誤字の記憶を継承

新聞漢字あれこれ190 「瞳・曈」 誤字の記憶を継承

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 

 

 

 校閲記者の業務には日々の新聞紙面・電子版のチェックのほかに、記者端末に搭載する変換辞書のメンテナンスなどがあります。先日は人名で登録してある「子」「子」に、それぞれ《日へん》《目へん》という注意喚起のコメントを入れました。

 これは直木賞作家である澤田子(さわだ・とうこ)さんのと間違えそうになったことによるものです。では字形が似ているうえ同じトウと読むこと、常用漢字でおなじみの(ドウ・ひとみ)に対し、はJIS第3水準の超1級漢字(※)で珍しく、見慣れない字であることが誤りやすい要因になります。無意識にのつもりがになってしまったり、逆にになってしまったりすることが起きかねません。コメントを付けることで、誤変換・誤選択の予防策としたしだいです。
 日本経済新聞では2006年4月、華道家で花芸安達流創始者の安達子(あだち・とうこ)さんの追想記事で、の字をに誤植した苦い記憶があります。夕刊の早版で間違ったまま新聞を印刷、途中で誤りに気づき最終版ではなんとか修正できました。記事をチェックする際に、似た字に注意を払うのは言うまでもありませんが、そもそも似た字の存在を知らなければ気付くこともできません。日ごろから間違いやすい漢字について知識を深めておくことは、校閲記者の務めでもあります。
 安達子さんが2006年3月10日に亡くなった後の3月27日、養女の安達育さんが二代目として「安達子」を襲名しました。は常用漢字でも人名用漢字でもないため、現在は子供の名付けに使えませんが、世襲という形で字が継承されています。あらためての違いを注意しなければなりません。
 は『新潮日本語漢字辞典』で1つ目の意味に「朧(とうろう)は日の出の次第に明るくなるさま」とあり、2つ目の意味には「安達子(とうこ)は 華道家」と載せていました。安達子さんの名前を間違えてから20年。同じ過ちを繰り返さないためにも、校閲記者もこうした誤字の記憶を次の世代に継承していく必要があります。新聞の作り手がかわっても同じ題字で発行し続けるわけですから。

※超1級漢字:JIS第1・第2水準以外の漢字のこと。筆者の造語。漢検1級の出題範囲である約6000字がJIS第1・第2水準を目安としていることから。

 

 

次回、新聞漢字あれこれ第191回は6月10日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

『新潮日本語漢字辞典』新潮社、2007年
『増補改訂JIS漢字字典』日本規格協会、2002年

≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら

漢字ペディアで「瞳」を調べてみよう

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。



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