まぎらわしい漢字姓名・名づけ

新聞漢字あれこれ129 「そっくり漢字」と思い込み

新聞漢字あれこれ129 「そっくり漢字」と思い込み

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 固有名詞、特に人名で似た漢字の取り違えを見ます。もちろん字形が似ているから起きるミスですが、記事の書き手の思い込みが影響しているように感じられることがあります。

 8月の紙面では、ある企業の人事記事で「普」という名前を「晋」に誤りそうになった事例がありました。「普」と書いて「ひろし」と読む名前でしたが、人名では「晋」1字の名前の人が多くいますので、ついつい間違えて入力してしまったようでした。『増補改訂JIS漢字字典』によれば、人名用漢字の「晋」にはススム、ノボル、ヒロシの名前の人がいる一方、常用漢字の「普」にもススム、ヒロシと読む名前の人がいるとのことです。

 私が所属する校閲グループの「業務報告書」のデータベースを検索すると、常用漢字の「孝」と「考」でやはり取り違えの事例がありました。名前の「孝一郎」が「考一郎」になっていたもの、逆に「考太郎」が「孝太郎」に化けていた報告も。名前には「孝」が多く使われていると思い、「考」が「孝」に間違えられるものばかりと予想していたのですが、実はどちらもありました。音読みが同じコウであることから、単純な変換ミスもあるようです。

 どちらの事例も、字形が似ていて読みも同じとあれば、誤字が発生するのもうなずけます。これに書き手側の思い込みまで加われば、間違う頻度も高くなるばかり。校閲する側も、資料に当たるなど1字1字チェックするのはもちろんですが、無用な思い込みを排除することが肝要です。

 産経新聞社で校閲部長を務めた時田昌(ときた・まさし)さんは、かつて、よく「晶(あきら)さんでしょうか?」と商品の勧誘電話で間違われたとのことでした。それで「セールスだな」とすぐに分かり、断っていたそうです。何はともあれ、きちんと確認せず思い込みで仕事をしているようでは〝成果〟は出せないということでしょう。常用漢字の「晶」と人名用漢字の「昌」はともに音読みがショウで、アキラと読む名前の人がいます。これも誤りの原因でしょうか。

 日経校閲X(旧ツイッター)では2023年1月から「#そっくり漢字」を週に1回程度投稿しています。そこでは未然に防いだものや新聞紙面に載ってしまった似た字の誤りを紹介。ミスの実例を見ながら、誤字を無くすための注意点を考えています。校閲記者自身の戒めが何かの役に立つのではないかという趣旨で続けています。興味のある方は、ぜひご覧になってください。

「#そっくり漢字」の事例

次回、新聞漢字あれこれ第130回は10月18日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

『増補改訂JIS漢字字典』日本規格協会、2002年
『大漢語林』大修館書店、1992年
『似て非なる漢字の辞典』東京堂出版、2000年

≪参考リンク≫

「日経校閲X(旧ツイッター)」 はこちら
漢字ペディアで「普」を調べよう
漢字ペディアで「晋」を調べよう
漢字ペディアで「考」を調べよう
漢字ペディアで「孝」を調べよう
漢字ペディアで「昌」を調べよ
漢字ペディアで「晶」を調べよう

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

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