まぎらわしい漢字姓名・名づけ

新聞漢字あれこれ186 「磯・礒」 同じ読みでも異なる関係

新聞漢字あれこれ186 「磯・礒」 同じ読みでも異なる関係

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 

 

 新聞記事の校閲をしていると、「いそ」と読むの字を取り違えるミスをよく見ます。固有名詞で特に姓に多く、崎・崎、本・本、山・山など、枚挙にいとまがありません。

 部首が同じ石偏で「いそ」と読み、字形も似ていては間違えられることが多くなるのもうなずけます。(キ)は「岩に水が激しくあたる」(現代漢語例解辞典)意味で、(ギ)は「いわ。いわお」(同)の意。本来は別字ではありますが、それぞれ「いそ」を国訓(日本製字義)として持ち、古くから使われてきました。
 現在は「いそ」の意味ではを用いることが多く、のほうは「いそ」とは読みますが「姓氏の一つ」(新潮日本語漢字辞典)として見ることが多いと思われます。同じ「いそ」とは読んでも異なる字であるため、固有名詞では使い分けることになるわけです。
 とはいえ、は知っていても、似たの存在を知らない人もいます。そのため、パソコンでを入力したつもりがになってしまうということが起こり得ます。逆にと間違えることもあるでしょう。校閲記者としては字の違いを見極めたうえで、資料などに当たり、固有名詞の確認が必要になってきます。
 間違えられたり、混同されたりすることが少なくないため、『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典』第2版では注意喚起の意味を込めて「いそざき」と「いそべ」の項目を立てています。特に「いそべ」の場合は、「いそ」のだけでなく「べ」の辺・部も誤りやすいため、要注意です。
 ちなみにとも表外字で、は人名用漢字になります。は常用漢字表外ではあるものの、2001年に日本新聞協会新聞用語懇談会が使用することを決めた39字のうちの1字で、日本経済新聞では同年12月1日付紙面から固有名詞以外でも使えるようになりました。




 私がの字を知るきっかけとなったのは中学2年生のとき、という名字の先生が転任してきたことでした。その時は漠然と「何でではないのだろう?」と疑問に思っただけで、辞典などで調べるようなことはしませんでした。それが仕事としてのチェックをするようになるとは不思議なものです。先生のおかげでの違いには敏感になり、校閲記者としてはありがたい出会いとなりました。

 

 

次回、新聞漢字あれこれ第187回は3月18日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

笹原宏之『国字の位相と展開』三省堂、2007年
『漢字くずし方辞典』新装版、東京堂出版、2019年
『現代漢語例解辞典』小学館、1992年
『新潮日本語漢字辞典』新潮社、2007年

≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら

漢字ペディアで「磯」を調べてみよう
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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。



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