新聞漢字あれこれ184 「画竜点睛」をどう書くか?
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
画竜点睛(がりょうてんせい)。「物事を完成するために、最後に加える大切な部分」(新明解四字熟語辞典)という意味の四字熟語です。手書きの際に「睛」が「晴」に間違えられることがよくありますね。
中国六朝時代、張僧繇という優れた画家がある寺の壁に4匹の竜の絵を描いた際、ひとみを描くと竜が飛び去ってしまうと言って、描き入れませんでした。これを怪しく思った人たちが無理に描き入れさせたところ、入れた2匹が天に昇り、入れなかった2匹はそのまま残ったという故事が由来とされます。一般には「画竜点睛を欠く」と用いて、「最後の仕上げが不十分で、肝心なところが欠けているため精彩がない」(同)場面で使われています。
出典は中国の『歴代名画記』(9世紀)で、「睛」は「ひとみ」「目玉」の意。由来を知っていれば「睛」を「晴」と間違うことはないのでしょうが、両者は字形が似ているし、なじみのある常用漢字の「晴」に対し、「睛」はあまり見かけない表外字ということもあります。ついつい手書きでは間違ってしまうのでしょう。
日本経済新聞ではかつて表外字を拡張新字体にしていたことがあります。「睛」の字形は1970年から30年ほど「目偏に青の新字体」となっていました。
「睛」と「晴」ならば、見分けのポイントは偏と旁(つくり)の2カ所ですが、拡張新字体と「晴」では偏の1カ所だけになってしまい、見落としがちに。実際、1990年代前半の日経金融新聞のコラムで、署名が「点睛」の拡張新字体であるべきところが「点晴」になっていたということが何度かありました。
新聞製作のシステム変更に伴い字体を見直す際、真っ先に「睛」の拡張新字体をやめるように私が提案し採用されました。「点晴」の誤字が念頭にあったからです。見直したフォントは1996年4月に最終的な方針が決定し、1999年6月から紙面で実施されました。
「睛」の拡張新字体を見なくなり四半世紀が過ぎました。記者がパソコンで記事を書くようになって、2011年以降は紙面から「画竜点晴」の誤字もなくなりました。「点晴」のような誤植をしていては、まさに「点睛を欠く」ことになってしまいます。注意しなければなりません。
次回、新聞漢字あれこれ第185回は2月18日(水)に公開予定です。
≪参考資料≫
『新潮日本語漢字辞典』新潮社、2007年
『新明解故事ことわざ辞典』第二版、三省堂、2016年
『新明解四字熟語辞典』第二版、三省堂、2013年
『似て非なる漢字の辞典』東京堂出版、2000年
『四字熟語ときあかし辞典』研究社、2018年
≪参考リンク≫
「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「画竜点睛」を調べてみよう
≪おすすめ記事≫
新聞漢字あれこれ67 懐かしい幻の漢字字体 はこちら
新聞漢字あれこれ111 「入」か「人」か、そこが問題 はこちら
新聞漢字あれこれ114 タンタンメンはどんな麺? はこちら
≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。