新聞漢字あれこれ188 「習う」と「倣う」の使い分け
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
新入社員は倣い、習って
「○○県は民間にナラって機動的な人材活用策を導入した」――。
こうした場合の「ナラって」の「ナラ」に、みなさんは「習」と「倣」のどちらの字を使いますか。
新聞記事の校閲をしていると「習う」と「倣う」を使い分ける場面がよく出てきます。特に多いのが「倣う」とすべきところが「習う」になっている事例。冒頭の例文は「習って」ではなく「倣って」とするほうが適切でしょう。『新聞用語集 2022年版』は、「習う」と「倣う」の使い分けについて、次のように示しています。
ならう
=習う〔習得〕
習い覚えた技術、習い性となる、習うより慣れよ、習わぬ経を読む、見習う、見習社員
=倣う〔模倣〕
前例に倣う、ひそみに倣う、右へ倣え
同じ「ナラう」と訓読みする「習」と「倣」。「習」は「身に付けようとして何度もくり返す」(漢字ときあかし辞典)意味で、「倣」は「まねをする」(同)ことを表します。例文は、県が民間に直接教えを受けて人材活用策を習得したわけではなく、まねをした意味にとって、「倣って」とするのが妥当と考えられます。
「倣う」を「習う」としてしまうことが多いのはなぜか。「習」が「学習」「復習」「練習」「習熟」などなじみのある熟語を構成して見慣れているのに対し、「倣」は「模倣」くらいしか見ることがないこと、「模倣」には「悪いニュアンスが伴いやすい」(日本語 語感の辞典)ことが一因にあるのかもしれません。そんなこともあって『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典』では「倣う」の説明を「手本として従う。模倣」とし、必ずしも悪い意味だけではないことを示しています。
私たち校閲記者は、入社するとまず先輩記者に付いて仕事を「習う」ところから始まります。先輩の仕事に対する姿勢を「倣う」こともあるでしょう。そして国語辞典や用字用語集を何度も繰り返しめくって調べることで、技術が身に付いていきます。数年もすれば、使い込んだ証しとして辞典と用語集に適度な汚れが付いてくるはず。もしも、ずっときれいなままの記者がいたとしたら、「ナラう」の使い分けもおぼつかないに違いありません。いつまでも「見習い」気分では困ります。

次回、新聞漢字あれこれ第189回は4月29日(水)に公開予定です。
≪参考資料≫
『漢字ときあかし辞典』研究社、2012年
『漢字の使い分けときあかし辞典』2016年
『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典第2版』三省堂、2025年
『新聞用語集2022年版』日本新聞協会、2022年
『日本語 語感の辞典』岩波書店、2010年
≪参考リンク≫
「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「習」を調べてみよう
漢字ペディアで「倣」を調べてみよう
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。