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新聞漢字あれこれ197 「八丁目」 直してはいけない漢数字

新聞漢字あれこれ197 「八丁目」 直してはいけない漢数字

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語委員)



 新書を読んでいて、20年近く前の苦い経験が記憶によみがえってきました。デスク(次長)になった年、一緒に仕事をしていた社会面の校閲担当者が地名表記を改悪し、それが新聞として印刷されてしまったのです。

 読んでいたのは『ヤバい日本の住所』(幻冬舎新書)で、目次に「八丁目があるからといって一丁目や二丁目もあるとは限らない――埼玉県春日部市八丁目516-1」と書いてあるページ。そこを開くと「春日部市8丁目と書いたらまずい?」の見出しが目に飛び込んできました。苦い経験とはまさにこのことです。
 2008年10月。ある人物の訃報記事で住所の「春日部市八丁目」を「春日部市八」と校閲担当者が独断で直してしまったのです。といってもこれは間違いですから、直したのではなく、改悪したことになります。当時、日本経済新聞では住所表記を「大手町一丁目三番地七号」だったら「大手町一ノ三ノ七」のように書くルールになっていたため、担当者が「機械的に直してしまった」のでした。
 そのときに校閲の現場責任者だった私は、スポーツ面などを含めて複数の紙面を担当。当該記事を読んだときは「春日部市八丁目」になっていたのに、社会面担当者がいつの間にか改悪をしていたのでした。輪転機が回り初版の印刷が終わったころ、社会部のデスクが「勝手に直したのは誰だ!」と怒鳴り込んできて驚きました。本来は固有名詞や事実関係に関する直しは出稿した部署に確認を求めるものですが、くだんの校閲担当者は体裁の直しという認識だったため、その手順を踏んでいなかったのが事故の原因。
 この場合、市の直後に「丁目番地」が続くことはまずないということが念頭にあれば防げたものです。さらに地名の確認を怠っていたというところにも問題があります。春日部市八丁目は、もともとは「八丁目村」で、明治時代の市町村制施行などを経て現在の「春日部市八丁目」になったものです。固有名詞であるため「八」を「8」にしたり、「丁目」を略したりすることはできません。地名である「六本木」を「6本木」にしないのと同じ理屈です。

 かつてこんなことがありました。記事中の西暦表記が2桁の「20年」となっていたものを、校閲担当者が4桁の「2020年」に直したら、正しくは「1920年」だったというものです。このときも担当者から「機械的に直してしまった」との言い訳がありました。「機械ならそんな間違いはしない」と言い切ったのは、ご意見番的存在の大ベテラン校閲記者。「機械的に」直そうとしてしまうところに、どこか油断やおごりがあったといえます。
 日本経済新聞は2009年6月から数字表記のルールを漢数字から洋数字に変更しました。読みやすさもあり、すっかり定着した表記ではありますが、「春日部市八丁目」を「春日部市8」としないのは言うまでもありません。


次回、新聞漢字あれこれ第198回は9月30日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

河合太郎『ヤバい日本の住所』幻冬舎新書、2026年
『角川日本地名大辞典11 埼玉県』角川書店、1980年


≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら

漢字ペディアで「」を調べてみよう

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語委員

1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。記事審査部次長、研修・解説委員、用語幹事などを経て現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。専修大学国際コミュニケーション学部協力講座講師。漢検 認定エキスパート講師。漢字教育士。

著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『日本語ライブラリー 文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日経BizGate『誰かに話したくなるビジネス日本語』、三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。



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