新聞漢字あれこれ194 「喝」は入れられない
著者:小林肇(日本経済新聞社 用語委員)
スポーツの試合中、指導者が選手を励ます意味で「カツを入れる」場面がよくあります。この「カツ」に皆さんはどの漢字を当てますか。
6月某日、朝刊スポーツ面の記事を読んでいると「ときにはチームに喝を入れたり……」というくだりがありました。この「喝」は「活」と直したかったところです。「活を入れる」を「喝を入れる」と間違う事例は多く、新聞各社の用字用語集でも誤りやすい語句として載っていて、注意喚起されているものです。新聞用語懇談会編『新聞用語集 2022年版』では次のように示しています。
喝を入れる→活を入れる
「気絶した人をよみがえらせる、元気付けて励ます」意味。「喝」は「大声で叱る、どなる、脅す」意味で「喝を入れる」という慣用句はない。「一喝する」「喝を食らわす」などと使う。
ここでいう「活」とは、「柔道などで、気絶した人の意識を取り戻させる方法」(大辞林第四版)のこと。「活を入れる」のもともとの意味は、気絶した人の急所を突いたりもんだりして、息を吹き返らせることを言います。転じて「刺激を与えて、気力を起こさせる」(同)意味に広がりました。一方の「喝」は、「①大きな声で叱ること、おどすこと。②禅宗で、指導者が修行者を叱ったり導いたりする手段として大声を出すこと。また、その際に言う語」(同)になります。
では、なぜ「活を入れる」が「喝を入れる」に間違えられるのか。「活」と「喝」が同じ「カツ」と読むことは言うまでもありませんが、気絶した人の息を吹き返らせることよりも、禅僧が大きな声で「喝!」と言っている場面のほうがイメージしやすいからなのかもしれません。日曜日の朝に放映されている民放の番組では、スポーツのコーナーでご意見番が選手に「喝」と言うのがおなじみですね。大きな声で叱ることが「刺激を与えて、気力を起こさせる」ようにも受け取れて、「喝を入れる」が広まったのでしょうか。
何はともあれ「喝を入れる」は誤りやすい慣用句の定番。新聞だけが誤用扱いしているわけではなく、常用漢字表が改定された2010年以降に刊行(改訂)した主な国語辞典17種を見ても、「喝を入れる」に触れた6種のすべてが「誤り」の立場をとっています。思い込みで記者が書いてきたとしても、校閲記者はきちんと直したいものです。この時の担当者は「一喝」しないといけませんね。
国語辞典「喝」と「喝を入れる」の記述
| 辞書名 | 出版社 | 刊行年 | 記述 |
| 大辞泉 第2版 | 小学館 | 2012 | 「喝を入れる」と書くのは誤り。 |
| 現代国語例解辞典 第5版 | 小学館 | 2016 | 「喝を入れる」は誤用。 |
| 明鏡国語辞典 第3版 | 大修館書店 | 2021 | 「喝を入れる」は誤り。 |
| 三省堂国語辞典 第8版 | 三省堂 | 2022 | 「活を入れる」は別のことば。 |
| 三省堂現代新国語辞典 第7版 | 三省堂 | 2024 | 感動詞の「喝」とまぎれて「喝を入れる」と書くのは誤り。 |
| 例解新国語辞典 第11版 | 三省堂 | 2025 | 「喝」とまぎれて、「喝を入れる」と書く人が増えている。 |
次回、新聞漢字あれこれ第195回は8月5日(水)に公開予定です。
≪参考資料≫
神永曉『やっぱり悩ましい国語辞典―辞書編集者を困惑させる日本語の謎!―』2022年、時事通信出版局
前田安正『朝日新聞校閲センター長が絶対に見逃さない 間違えやすい日本語』すばる舎、2014年
『新聞用語集 2022年版』日本新聞協会、2022年
『新明解故事ことわざ辞典 第二版』三省堂、2016年
『NIKKEI用語の手引2023年版』日本経済新聞社、2023年
※参考にした国語辞典は表を参照
≪参考リンク≫
「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「活」を調べてみよう
漢字ペディアで「喝」を調べてみよう
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語委員
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。記事審査部次長、研修・解説委員、用語幹事などを経て現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。専修大学国際コミュニケーション学部協力講座講師。漢検 認定エキスパート講師。漢字教育士。
著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『日本語ライブラリー 文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日経BizGateで『誰かに話したくなるビジネス日本語』、三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。