気になる日本語漢字の使い分け

新聞漢字あれこれ193 「動線」から「導線」へ広がる意味

新聞漢字あれこれ193 「動線」から「導線」へ広がる意味

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語委員)

 

 

 建物内などで人が移動する経路を「動線」といいます。これについて、同じ意味で同音の「導線」と書く場合があり、使い分けの質問を受けたことがあります。拡大する「導線」の意味は――。

 三省堂の『例解新国語辞典 第十一版』では「動線」「導線」の意味を次のように示しています。

【動線】建物の中や都市空間で、人や物が移動する経路を示した線。
【導線】電流をながすための針金。


 多くの国語辞典でも同様の意味説明になっていました。とはいえ、現状では「動線」と同じような意味で「導線」が使われることがあり、国語辞典でも2010年代半ばからそうした記述をするものが出てきました(表参照)。

国語辞典「導線」項目の記述(一部省略)

辞典名 刊行年 記述
大辞泉 第2版 2012 電流を流すための導体となる金属線。電線。
ベネッセ新修国語辞典 第2版 2012 電流を通すための針金。
集英社国語辞典 第3版 2012 電流を通すための線。
現代国語例解辞典 第5版 2016 電流を通すための導体の針金。
学研現代新国語辞典 改訂6版 2017 電流を通すための線。
広辞苑 第7版 2018 ①電流を通ずるための針金。電線。②一定の曲線に沿って移動する直線によって曲面が生じる時、その一定の曲線をその曲面の導線という。
大辞林 第4版 2019 ①端子間をつないで電流を通ずる針金。電線。②ある曲線に沿って直線が移動することにより一つの曲面が生ずるとき、その曲面に対する曲線。
岩波国語辞典 第8版 2019 電流を通すための線。
旺文社標準国語辞典 第8版 2020 電流を通すための針金。
学研現代標準国語辞典 改訂4版 2020 電気を流すための金属線。
新明解国語辞典 第8版 2020 ①電流を通すための針金。②〔駅やデパートなどで〕客が進んで行く経路。
明鏡国語辞典 第3版 2021 電流を通すための金属線。
三省堂国語辞典 第8版 2022 ①電流を通すための針金。②→動線。 ※7版(2014年)から掲載
新選国語辞典 第10版 2022 ①電気を通すための金属の線。②デパートなどで、客が自然に店内を歩くように設定された道すじ。
旺文社国語辞典 第12版 2023 電流を流すための金属線。
三省堂現代新国語辞典 第7版 2024 ①電流を通すための針金。②人をみちびく経路。[ウェブサイトでの誘導のしくみをなぞらえても言う]
例解新国語辞典 第11版 2025 電流をながすための針金。


 そのきっかけとされるのが、2011年9月20日に日本経済新聞電子版で公開された「建設業界は『動線』、百貨店は『導線』ドウセンその違いは?」という記事です。一般的に「動線」が使われるなかで、百貨店業界は長年「導線」を使ってきたとの内容で、「客を目的の商品に向かって導くための線」というのがその理由になります。そんなこともあって、『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典』では初版(2020年)から次のような使い分けを示しています。

 動線 建物内などで人が移動する経路。「生活動線」
 導線 電流を通す線。電線。*百貨店業界では動線の意味で「導線」を使う。

 どちらの「どうせん」も人が動くことでは同じ意味にはなりますが、「導線」にはより「誘導」の意味が強く込められているように思えます。複数の路線が乗り入れする鉄道の駅の通路では、目的のホームへたどりつけるような矢印の案内が見られます。これなどは人が移動する線ではあるものの、目的の場所へ導いているわけですから、百貨店と同じく「動線」よりも「導線」のほうがしっくりくるかと思います。
 日本経済新聞社の記事データベースサービス「日経テレコン」を用いて、日本経済新聞の朝夕刊で2000年以降「動線」「導線」が出現する記事を調べると、①「動線」が「導線」よりも多く使われる ②電線以外の「導線」が2010年代になり増えた――という傾向が見て取れます(グラフ参照)。そして②の電線以外の「導線」のなかには、少数ではありますが「動線」と必ずしも同じとは言えない「導線」もありました。

動線・導線(電線の意/それ以外)の新聞出現数を表すグラフ


 例えば「消費者をどのようにして購買ページに誘導するかといった導線作りが課題となっている」という場合は、人が実際に移動するわけではありません。これには『三省堂現代新国語辞典第七版』にある「導線」の「人をみちびく経路。[ウェブサイトでの誘導のしくみをなぞらえても言う]」という2番目の語釈がぴたりとあてはまります。単純に「動線」と置き換えられるものではないでしょう。日本経済新聞社の『NIKKEI用語の手引2023年版』では「どうせん」の項目に「客や利用者を導くルートの意味で、小売業界やウェブサイト関係では『導線』も使う」という注釈をつけました。
 「導線」は「電線」に始まり、「動線」に「誘導」のニュアンスを伴いながら、広がりつつあるといえます。今後、国語辞典の記述も少しずつ変わっていくことになるのではないでしょうか。

駅の案内矢印の写真。 

次回、新聞漢字あれこれ第194回は7月22日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

日本経済新聞社編『謎だらけの日本語』日経プレミアシリーズ、2013年
『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』三省堂、2025年
『NIKKEI用語の手引2023年版』日本経済新聞社、2023年
※参考にした国語辞典は表を参照

日経電子版記事
https://www.nikkei.com/article/DGXBZO34729610S1A910C1000000/



≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら

漢字ペディアで「導線」を調べてみよう

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語委員

1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。記事審査部次長、研修・解説委員、用語幹事などを経て現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。専修大学国際コミュニケーション学部協力講座講師。漢検 認定エキスパート講師。漢字教育士。

著書に『新聞・放送用語担当者完全編集 使える!用字用語辞典 第2版』(共編著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『日本語ライブラリー 文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日経BizGate『誰かに話したくなるビジネス日本語』、三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。



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