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新聞漢字あれこれ158 「脈絡」 脈略ではありません!

新聞漢字あれこれ158 「脈絡」 脈略ではありません!

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 

 校閲をしていると、いろいろな種類の入力ミスを見ます。同音・同訓のものは定番ですが、音が似たことばもそれなりにあって、これがまた見落としやすいのです。

 

 連載の第82回「誤読で起こるミスいろいろ」で取り上げた「脈」を「脈」と誤るミス。これが後を絶ちません。先日も日本経済新聞朝刊文化面の記事で「フィルムには(中略)脈なくつながれたカットも多い」と書いたくだりがありました。こうしたミスは校閲グループで何度も防いでいるのですが、年に1回程度はチェックの網をくぐり抜けて、紙面化しています。

 「脈」と「脈」の混同は日経だけに限りません。毎日新聞社の校閲センターが運営するウェブサイト「毎日ことばplus」でも2022年9月3日公開の記事で「脈」を「脈」に直した事例を取り上げていましたし、新聞記事データベースを検索すると、他紙でもかなりの数の「脈」が出てきました。

 脈とは「つながっている筋道。つながり」(三省堂国語辞典)のことで、脈もも「つながり」を表します。間違いの原因には思い込みが影響していると思われますが、記事を書く側もチェックする側もそれほど違和感を持つことなく、「脈」を通してしまっているのでしょう。日経校閲X(旧ツイッター)では、2021年11月10日に次のような投稿をしています。

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 ”ある国語辞典の最新版に「木に竹を接ぐような(=脈のない)ことをする」という記述がありました。「脈(がない)」とすべきところを「脈」と間違えることは必ずしも珍しくないのですが、それが国語辞典となると話は別。こういうことばも実はあるのではないかと考えてしまいます。(埋)#脈

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 これも第82回で触れたことですが、この国語辞典では約20年前に刊行した初版から記述が「脈」となっていました。それだけ間違えられやすいというか、間違っていても気付きにくいものと思われます。

 新聞記事に出てくる「脈」のほぼすべてが「脈」の誤りであるのは、まず間違いありません。日経では、記事に「脈」が出てきた場合は、校正支援システムで「脈」に直すように指示を出すことにしました。ミスをゼロに近づける努力は続きます。

次回、新聞漢字あれこれ第159回は12月18日(水)に公開予定です。

≪参考資料≫

『漢字ときあかし辞典』研究社、2012年
『マスコミ用語担当者がつくった 使える!用字用語辞典』三省堂、2020年

≪参考リンク≫

「日経校閲X」 はこちら
漢字ペディアで「脈絡」を調べよう

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≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。



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