新聞漢字あれこれ48 「わりびき」に3段階!

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)
商品の値引き率の話ではありません。新聞で「わりびき」の表記が3通りで使い分けられているのをご存じでしょうか。漢字で書けば「割引」ですが、送り仮名の付け方にルールがあるのです。
まず1つ目が、送り仮名がない「割引」です。名詞で使う場合、「手形割引」「割引運賃」「割引サービス」など送り仮名をつけません。また、サ変動詞として使う場合も「自動車を割引して販売する」などとしています。
2つ目が「割引き」。これは上に数詞が付く場合で「2割引き」などと表記します。なぜ数詞がつくと送り仮名が「き」になるのかといえば、これは2割(20%)の値引きをするという意味ですから「2+割引」ではなく、「2割+引き」という形になると考えれば分かりやすいでしょう。
そして3つ目が「割り引き」です。これは名詞ではなく、動詞「割り引く」の連用形になりますので、送り仮名に「り」と「き」が必要になるわけです。「ロープウエーは観光シーズンに入る7月に料金を割り引き、集客を目指す」のように使います。この「り」と「き」をとってしまうと文が成立しなくなってしまいます。
校閲記者になると、こういったルールを一つ一つ覚えていきます。使い分けの意味さえ理解しておけば、そんなに難しいわけではありませんが、記事を書く記者がパソコンの変換キーを押す際に語の選択を誤ることがありますので、少なからずルール違反の「わりびき」が出てきます。それをきちんと直していくのが校閲の役割です。
少しやっかいなのが「5%わりびき」の表記です。数字がつくからといって「5%割引き」とするわけにはいきません。「5%割+引き」ではないからです。5%分を割り引くと考えれば「5%割引」という書き方でもいいでしょう。ただこの場合、「%」と「割」に何となくダブり感があるようにも見えます。そんな場合は「5%引き」としたほうが、すっきりして分かりやすくなります。
これらはあくまでも新聞やテレビでの表記ルールですので、一般の方々が書く表記と必ずしも一致するとは限りません。私など約30年間この規則でやってきていますので、街中で異なる表記を見るとついつい気になってしまいます。こういうのを〝職業病〟と言うのでしょうか。こんな3通りの使い分けがされていることを読者の皆さんはお気づきでしたか。
≪参考資料≫
朝日新聞社用語幹事『朝日新聞の用語の手引〔改訂新版〕』朝日新聞出版、2019年
NHK放送文化研究所編『NHK漢字表記辞典』NHK出版、2011年
共同通信社『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』共同通信社、2016年
産経新聞社『産経ハンドブック 平成24年版』産経新聞社、2012年
時事通信社『最新 用字用語ブック[第7版]』時事通信出版局、2016年
新聞用語懇談会編『新聞用語集2007年版』日本新聞協会、2007年
日本経済新聞社『NIKKEI用語の手引 2017年版』日本経済新聞社、2016年
毎日新聞社『2019年版 毎日新聞用語集』毎日新聞社、2019年
読売新聞社『読売新聞 用字用語の手引 第6版』中央公論新社、2020年
≪参考リンク≫
漢字ペディアで「割引」を調べよう
「NIKKEIことばツイッター」はこちら
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≪著者紹介≫
小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 著書などに『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。
≪記事画像≫
つむじ風なつこ/PIXTA(ピクスタ)