まぎらわしい漢字姓名・名づけ

新聞漢字あれこれ18 「太」と「大」は悩ましい

新聞漢字あれこれ18 「太」と「大」は悩ましい

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 「令和」になってから2週間が経過しました。改元フィーバーも少し落ち着いてきたという感じでしょうか。新元号が決まった直後、由来の地の漢字表記について読者の方から問い合わせがありました。

 新聞の見出し「大宰府」はこれでいいのか?「太」ではないのか――。新元号が発表されてから「令和」ゆかりの地である「だざいふ」が一躍脚光を浴びました。典拠となった万葉集の一節の舞台とされるのが福岡県「太宰府市」ですので、地元ではない読者の方からの疑問の声も当然といえば当然です。

 実は「だざいふ」の固有名詞は使い分けられていて、主に太宰府は「市名、天満宮」で、大宰府は「政庁、史跡」を指します。太宰府市ホームページにある「新元号『令和』ゆかりの地 太宰府」にも「律令制下の役所を指す場合は『大宰府』と『大』を用い、現在の行政名『太宰府市』や『太宰府天満宮』には『太』を用いている」との説明があります。また、『万葉集』の歌が詠まれた梅花の宴(うたげ)の様子を人形などで再現して展示しているのが「大宰府展示館」で、こちらは「大」。実にややこしいですね。

 こうした「大」と「太」の固有名詞は誤りやすく、校閲記者泣かせでもあります。その多くが「大」を「太」に取り違えるものです。例えば企業名。東証1部上場の「大平洋金属(たいへいようきんぞく)」や「大陽日酸(たいようにっさん)」はその代表格といえるでしょう。思わず「太」に直してしまいそうです。ちなみに大平洋金属の社名の由来は「名前自体のイメージに夢があるということを前提に、太平洋の洋上に点在する南の島より鉱石の供給を受けている関係を、また当社が国内のみならず、広く海外に発展していく」(「大平洋金属ホームページ」から)希望が込められているとのこと。「太」平洋のみならず「大」きく発展するという意味があるようですね。

 ほかに誤りやすいのが地名の「おおた」です。群馬県にあるのが「太田市」で、世界遺産の石見銀山があるのは島根県「大田(おおだ)市」。そして東京都は「大田区」です。大田区は、旧大森区と旧蒲田区が合併して1947年に発足しました。「多摩区」「東海区」「六郷区」「羽田区」「大森区」などが候補名に挙がったものの、双方が納得できる名称がなかなか決まらず、最終的に両者から1字ずつとって「大田」に落ち着いたとされます。

 また、「おおた」は姓でも要注意です。『ルーツがわかる名字の事典』によると太田姓は「日本人の名字トップ100」で45位、大田姓は圏外でした。人数の差もあってか、校閲をしていると、少数派の「大田」を比較的目にする機会の多い「太田」に間違うケースがよく見られます。校閲記者は目を凝らして点の有無を確認しています。

≪参考資料≫

岩崎雅子「墨田区と隅田川、『すみ』の表記なぜ違う? 23区に幻の区名」日本経済新聞電子版、2012年10月9日付
日本経済新聞社編『謎だらけの日本語』日経プレミアシリーズ、2013年
森岡浩『ルーツがわかる名字の事典』大月書店、2012年
大平洋金属ホームページ
太宰府市ホームページ

≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。編集局 記事審査部次長、人材教育事業局 研修・解説委員などを経て2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。
著書に『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「太」を調べよう
漢字ペディアで「大」を調べよう

≪記事画像≫

TOSHI.K / PIXTA(ピクスタ)

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