気になる日本語漢字の使い分け

新聞漢字あれこれ93 「総菜」「惣菜」 どちら派ですか?

新聞漢字あれこれ93 「総菜」「惣菜」 どちら派ですか?

著者:小林肇(日本経済新聞社 用語幹事)

 スーパーマーケットやコンビニエンスストアでおなじみの「惣菜」コーナー。新聞では「総菜」と表記します。皆さんはどちらの書き方になじみがありますか。

 「総」と「惣」は別字ではありますが、どちらも「ソウ」「すべて」の音訓があり、意味的にも近い存在。大きな違いといえば、「総」が常用漢字で、「惣」は表外字(常用漢字表にはない漢字)であるということです。

 国語審議会が1956年に報告した「同音の漢字による書きかえ」には「惣菜→総菜」が示され、常用漢字を使う新聞では「惣菜」とは書かずに「総菜」と表記しています。国語辞典にはどちらも載ってはいますが、掲載は「総菜・惣菜」の順で、「総菜」表記をより標準的なものとして扱っています。

東京都内のスーパーマーケットで見かけた「惣菜」

 では、実際に「そうざい」を作ったり、販売したりしている現場ではどのようになっているのか。最近は外国語の「デリカテッセン(Delicatessen)」やそれを略した「デリカ」「デリ」も見聞きしますが、漢字表記ならば「総菜」よりも「惣菜」のほうを目にすることが多いように感じます。一般社団法人の日本惣菜協会があり、惣菜管理士という資格もあるなど、業界内では「惣菜」がかなり浸透しているようです。

東京都内の惣菜持ち帰り店で見かけた「惣菜」

 同じ代用漢字(同音の漢字による書きかえ)に「衣裳→衣装」があります。こちらは「衣装」が定着する一方で、「衣裳」のほうも「戦後、60年経った今でも、この『旧表記』は小説、女性雑誌、貸衣装屋などで根強く残っている」(当て字・当て読み 漢字表現辞典)といいます。標準とされる表記が変わろうとも旧表記が好まれ長く生き続ける、「惣菜」もまた同様のケースと言えるのかもしれません。

 「そうざい」については、かつてNIKKEIことばツイッターで、しっくりくる書き方を問うアンケートをしたことがあります。回答は「惣菜」が95%と多数を占め、「総菜」は4%と少数派でした(調査結果はこちら)。「惣菜」が私たちの生活に密接なところで使われ続け、一般に強い印象を残していることが結果に表れたのでしょう。

 連載の第87回で「斑・班」を取り上げた際、「惣菜→総菜」の書き換えが気になると書きました。校閲記者として私は「総菜」表記に慣れているものの、広く「惣菜」が支持されているのであれば、将来的に新聞が「惣菜」に表記変更してもよいと思っています。代用漢字を一律に何十年も使い続けるよりも、語の定着度によっては表記を改めるという選択もあり得るのではないでしょうか。

≪参考資料≫

金武伸弥『新聞と現代日本語』文春新書、2004年
笹原宏之『当て字・当て読み 漢字表現辞典』三省堂、2010年
三省堂編修所編『新しい国語表記ハンドブック第九版』三省堂、2021年
『国語審議会答申・建議集』文化庁文化部国語課、2001年
『新聞用語集 2022年版』日本新聞協会、2022年

≪参考リンク≫

漢字ペディアで「総菜」を調べよう
「NIKKEIことばツイッター」はこちら

≪おすすめ記事≫

新聞漢字あれこれ8 「正しさ」と「分かりやすさ」のはざまで はこちら
新聞漢字あれこれ85 今年はカイフクしますように はこちら
新聞漢字あれこれ87 斑と班 どちらも「まだら」 はこちら

≪著者紹介≫

小林肇(こばやし・はじめ)
日本経済新聞社 用語幹事
1966年東京都生まれ。1990年、校閲記者として日本経済新聞社に入社。2019年から現職。日本新聞協会新聞用語懇談会委員。漢検漢字教育サポーター。漢字教育士。 専修大学協力講座講師。
著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林第四版』(編集協力、三省堂)などがある。2019年9月から三省堂辞書ウェブサイトで『ニュースを読む 新四字熟語辞典』を連載。

≪記事画像≫

kai / PIXTA(ピクスタ)
写真1:東京都内のスーパーマーケットで
写真2:東京都内の惣菜持ち帰り店で

記事を共有する